第7戦インディアナポリス RACE REPORT:試練のシーズンにまだ待ち受けていた落とし穴

ようやく泥沼から脱し、流れは変わったはずだった。

9月16日に行われたレッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ第6戦。室屋義秀は開幕戦以来、5戦ぶりとなる表彰台に立つことができた。第3戦から三戦続いた惨敗で、すでに今年の最大目標だった年間総合での連覇は事実上逃してはいたものの、ようやくたどり着いた久しぶりの晴れ舞台だった。

今年残る2戦をこのままいい形で終えられれば、間違いなく来年につながる。ディフェンディング・チャンピオンゆえのプレッシャーと戦いながらの苦しいシーズンも、今後につながる貴重な経験となるはずだった。

泥沼を脱した。流れを変えた。しかし、そう考えていたからこそ、待ち受ける落とし穴に気がつかなかったのかもしれない。

 

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©️Balazs Gardi/Red Bull Content Pool

 

油断があった。せっかくのいい流れに乗り損ねた原因を、そう断じてしまうのは酷というものだろうか。

10月7日に行われた第7戦。予選で5位につけた室屋は、ラウンド・オブ・14で同10位のベン・マーフィーと対戦した。先に飛んだマーフィーのタイムは、1分7秒130。両者の対戦はラウンド・オブ・14の第1組だったため、このタイムがどの程度のレベルにあるのかをこの時点で正確に計ることは難しかったが、コックピット内のマーフィーが身振りで示した失望感からは、平凡なタイムであることが想像できた。

室屋はラウンド・オブ・14を前に、予選とはライン取りを変えることを決めていた。

ゲート5(2周目のゲート12)通過後のバーティカルターンから、直線的に最短距離で次のゲート6(2周目のゲート13)へ向かうことでタイムの短縮を図る。そうすることで、ゲート6からゲート7(2周目のゲート14)へはすばやく急角度でターンする必要があったが、それは「リスクを負う」と表現しなければならないほどに難易度が上がるライン変更ではなかった。

 

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©️Mihai Stetcu/Red Bull Content Pool

 

しかも、マーフィーのタイムは、室屋の耳にも入っていた。「無理をする必要がないことは分かっていた。特に攻めたつもりもなかった」とは、偽りない回想だ。

ところが、ラインの変更箇所で痛恨のミスは起きた。

室屋はゲート13からゲート14へ向かう際、わずかに機体を右に傾けるタイミングが早くなり、ゲート13でインコレクトレベルのペナルティを犯してしまったのである。このペナルティによる2秒加算が響き、室屋はマーフィーに敗れた。

「狙い通りのラインを飛んでいた。ラインを変えたことが問題だったわけじゃない」

室屋はそこまで話すと、苛立ちを隠さず、吐き捨てるように言った。

「せっかくコンディションもよかったのに、あまりにもシンプルなミスだった」

 

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©️Joerg Mitter / Red Bull Content Pool

 

本音を吐露すれば、「(ペナルティ判定用の)カメラのアングルが少しおかしいのではないか。本当にペナルティだったのかという疑問はある」。実は室屋は、前日の予選1本目でもインコレクトレベルのペナルティを2回受けているのだが、これについても同様の疑問を口にしていた。

とはいえ、「バンクに入るタイミングが、想定していたよりもちょっと早かったのは間違いない。そこは悔いが残るし、僕のミスだった」と、認めざるをないのも確かだ。

結局、室屋は来年の巻き返しへの第一歩とすべきレースで、またしてもポイントなしの12位に終わった。対照的に、室屋のミスで命拾いしたマーフィーは、勢いに乗って自身初のファイナル4進出。あまりに皮肉な結果である。

 

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©️Balazs Gardi/Red Bull Content Pool

 

室屋が険しい表情で語る。

「ひところ感じていた苦しい状況ほどではないので、もうちょっとで悪い流れから完全に抜け出せると思うんですが......。日常生活も含めて、レース以外に抱えている活動があまりにも多すぎて、自分自身のコンディション作りが少し遅れていることは否定できない。いろんなものを削ぎ落して、うまく調整していく必要があると思います。決してそれを原因にするわけではないのですが、一番を取るのは難しい状況なのかもしれません」

この結果、室屋はチャンピオンシップポイントランキングで再び5位に後退。3位とのポイント差が27まで広がったことで、1レースを残して4位以下が確定した。年間総合での優勝はもちろん、表彰台に立つ可能性もなくなった今、室屋は望むと望まざるとにかかわらず、来年へと視線を向けざるをえない。

 

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©️Balazs Gardi/Red Bull Content Pool

 

「ある意味、もう割り切って来年の準備をするしかないかなという感じですね。次の最終戦までの間には、エンジンも新しいものに載せ換えることになっているし、今回のレースで新たに投入したウイングレットにしても、もう少し時間をかけてゆっくりとデータを解析することになると思います。機体はベン(チーム・ファルケンのタクティシャン、ベンジャミン・フリーラブ)がサンフランシスコで調整をするので、僕も最終戦の2週間くらい前に現地に入ってテストフライトを行い、その後、レース会場へフライインする予定です」

今回のレースの後は、今年の最終戦となる第8戦(11月17、18日、フォートワース)まで、1カ月以上もレース間隔が空く一方で、第8戦の後は全チームのレース機が来年の開幕戦に向けてアブダビへ船便で直送されることになっており、その間はどのチームも機体に触れることができない。つまり、これからの1カ月間は第8戦への準備期間であると同時に、来シーズン開幕へ向けた最終の準備期間でもあるのだ。

 

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©️Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool

 

幸か不幸か、すでに年間総合連覇の夢を絶たれた室屋にとっては、失望ではなく、来年への希望とともに、今年の最終戦に臨むことができる。その意味においては、やや変則的なスケジュールも、室屋には都合がよかったのかもしれない。もしも、いまだ年間総合優勝の可能性を残していたとすれば、やはり最終戦の勝利を最優先しなければならず、この1カ月間を来年への準備と割り切ることは難しかっただろう。

しかし、昨年の世界チャンピオンが今シーズンの最終戦を前に、そんなふうに無理やりにでも前向きに考えなければならない現状は、やはり寂しくもある。

 

(Report by 浅田真樹)

 

■Information

第7戦インディアナポリス 予選レポートはこちら>>

マスタークラスの最終結果はこちら>>

決勝後のパイロットのコメントはこちら>>

 

 

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©️Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool

 

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©️Chris Tedesco/Red Bull Content Pool

 

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©️Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool

 

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©️Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool

 

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©️Mihai Stetcu/Red Bull Content Pool

 

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©️Balazs Gardi/Red Bull Content Pool