ハンガーレポート #3:Blades Racing Team

マスタークラスとして初めて千葉のレースに挑んだベン・マーフィーが、自らハンガーを案内

レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップが千葉・幕張海浜公園で開かれるのも、今年で4年連続4回目である。日本におけるエアレース熱の高まりは、来日する各チームの間でよく知られるところとなり、パイロットやスタッフたちは1年に一度の千葉戦を心から楽しみにしている。

そんななか、今年初めてマスタークラスのパイロットとして千葉戦に臨んだチームがある。ルーキーパイロットのベン・マーフィー率いる、ブレーズ・レーシング・チームだ。

今回のハンガーレポートでは、ブレーズ・レーシング・チームが千葉のレースエアポートに初めて構えたハンガーを訪ねてみることにした。

 

 

快く"新居"へ迎え入れてくれたのは、パイロットであり、チームのリーダーでもあるマーフィーだ。

42歳のイギリス人パイロットは一昨年、昨年とチャレンジャークラスで千葉戦に出場し、昨年は3位の表彰台にも立っている。そんなゲンのいい会場に、晴れてマスタークラスのパイロットとして帰ってきたわけだ。

レッドブル・エアレースではルーキーながら、かつてはレッド・アローズ(イギリス空軍のエアロバティックチーム)でリーダーまで務めたマーフィーは、現在もエアレースと並行して、ブレーズ・エアロバティック・チームで活動している。ルーキーシーズンの初戦となった今年第1戦(UAE・アブダビ)ではいきなり6位に入り、類まれな飛行センスを発揮している。

 

 

まずは、マーフィーに彼を支えるチームスタッフを紹介してもらう。

最初はチーム・コーディネーターのアニー・ストーン。ブレーズ・レーシング・チームだけでなく、ブレーズ・エアロバティック・チームでも働く彼女は、パイロット・マーフィーのすべてを知る敏腕コーディネーターだ。

 

 

「アニーはレッドブル・エアレース1年目の我々にとっては欠かすことのできない存在。チーム運営、スケジュール管理、メディア・サポート、あとは何だろう......、とにかくチームに関わるすべてのことを彼女がやってくれるんだ」(マーフィー)

すると、傍らで話を聞いていたストーンがすかさず割り込み、「飛ぶこと以外はね」と一言。今度はマーフィーが、「そう、それだけは僕の仕事だ」と返す。息の合った掛け合いが、ふたりの間にある"阿吽の呼吸"をうかがわせる。

 

 

続いては、タクティシャンのニール・ファーネス。「ニールは、フライト映像はもちろん、エンジンやレーストラックなど様々なデータを分析し、ベストラインを導き出してくれるだけでなく、フライトを"進化"させてくれるアナリストだ」(マーフィー)。

カメラを向けると、「今、大事な作業中なのに集中できないよ」と照れ笑いを必死で我慢していたファーネス。マーフィーに話を聞いている間も、PCとにらめっこしながら黙々と作業を進めていた。

 

 

そして最後は、テクニシャンのアンドレアス・カウフマン。ルーキーチームにあって特別な存在と言ってもいいカウフマンは、「すでにレッドブル・エアレースでの経験が10年以上あるすばらしいエンジニア。レース機は彼の"赤ん坊(ベイビー)"のようなものだよ」(マーフィー)。

実はカウフマンが大事に育てているベイビーは、かつて室屋義秀がレースで使っていた飛行機だ。その後、ピーター・ポドランセックを経て、現在はマーフィーの手に渡っている。

 

 

今年からブレーズ・レーシング・チームに加わったカウフマンだが、かつてはレッドブル・エアレース界の"ゴッド・ファーザー"、ピーター・ベゼネイのチームで働き、昨年まではペトル・コプシュタインのチームでテクニシャンを務めた。「ニールと話し合いながら、エンジンや空力を改良してくれる」と、マーフィーの信頼も厚い。

その他、ブレーズ・レーシング・チームには、象徴的存在であるチーム・プリンシパルのアンディ・オファーや、チーム・マネージャーのレベッカ・アレンらがスタッフとして名を連ねるが、マーフィーによれば、「全部で8人ほどのチームスタッフがいるが、レースごとに会場に来るメンバー構成は変わる。日本はイギリスからは遠いので(笑)」、今回は4人体制になったとのことだ。

 

 

チャレンジャークラスからマスタークラスに昇格してきたほとんどのパイロットが口を揃えて言うのが、チームを編成することの難しさだ。レース機を含めたすべてが用意され、パイロットが体ひとつで参戦できるチャレンジャークラスと違い、マスタークラスはすべてを自分たちで用意しなければならない。

マーフィーもまた、「とにかく(準備の)時間が短かった。機体を買い、スタッフを揃え、スポンサーを探し、そのすべてを半年ほどの間にやらなければいけなかったんだから」と苦笑いを浮かべる。ただし、マーフィーが他のパイロットと違ったのは、彼はブレーズ・レーシング・チームを編成する以前から、ブレーズ・エアロバティック・チームを持っており、「チームが半分できていた」ことだ。

なるほど、このチームは1年目とは思えないほど"こなれた"印象を受ける。

 

 

豊富なキャリアを誇るエリート・パイロットゆえのアドバンテージがあったマーフィー。スタッフとともに試行錯誤を繰り返す毎日だが、ルーキーシーズンの初戦にして6位に入れたことで、「チームは正しいことをやれていると実感できた」という。

ちなみにマーフィーによれば、「エアレースとエアロバティックは全然違うところもあれば、すごく似ているところもある」とのことだが、一番の違いは飛行機で、「レース機はエアロバティックで使う飛行機とはレベルが違い、とてもよく動く」のだそうだ。

 

 

今年初めてマスタークラスで千葉にやってきたマーフィーだが、ルーキーながら、すでに日本での人気は高い。取材の前日にハンガーで行われたサイン会には「ビックリするほど多くのファンが来てくれた」と驚いていた。何度も「アメージングな経験だった」と繰り返し、日本でのエアレース熱を肌で感じた様子だった。

 

 

そして全員に集まってもらい、レース機の前で集合写真。ひとりのときは照れっぱなしだったファーネスも、バッチリ笑顔だ。

 

 

レッドブル・エアレースにおいて、イギリス人パイロットはある意味で特別だ。

過去にポール・ボノム、ナイジェル・ラムといったレジェンド級のパイロットたちが活躍してきた舞台では、自身が望む望まざるにかかわらず、その系譜を継ぐものとしての期待がかけられるからだ。

マーフィーもそのことを誇りに思っているのか、強い覚悟をうかがわせるように、機体やハンガーのあちらこちらにユニオンジャックがあしらわれている。

 

 

レース前に何かゲン担ぎをしていることはありませんかと尋ねると、「レースデイには、スタッフ全員がユニオンジャック柄のソックスを履くんだ」。そしてマーフィーは、テクニシャンのカウフマンを指し、「アンドレアスはドイツ人だけど、彼も履くよ」とのことだった。この日は予選日だったため、翌日のレースデイにあらためてハンガーを訪ねると、マーフィーとストーンが靴を脱いで、幸運のソックスを見せてくれた。

 

 

ルーキーながら非常に経験豊富なパイロットであるマーフィーは、早くも先輩パイロットたちから警戒される存在となっている。それは必ずしも彼の能力によるものだけではない。きっと彼を支えるチームもまた、とてもレッドブル・エアレース参戦1年目とは思えないほどに充実した体制が整っているからなのだろう。表彰台に立つ日も、そう遠くはないはずである。

 

(Report by 浅田真樹)

 

【ハンガーレポート】

#1:Matthias Dolderer Racing

#2:Team Goulian