ハンガーレポート #4: Cristian Bolton Racing

フル参戦2年目のチリ人パイロットのチームでは日本人テクニシャンも活躍中

ハンガリーの首都、ブダペストでレッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップが開催されるのは4年連続。レッドブル・エアレースの"ゴッド・ファーザー"、ピーター・ベゼネイのお膝元で開かれるレースは、年間カレンダーにおける定番となっている。

街全体が世界遺産に指定されている市街地のど真ん中に用意されるレーストラックは、世界中にレッドブル・エアレースを開催した都市は数々あれど、1、2を争う美しさだ。


そんな美しいレースに今年参戦した14チームのなかから、今回のハンガーレポートで紹介するのは、クリスチャン・ボルトン率いるクリスチャン・ボルトン・レーシングである。

 

 

人懐っこい笑顔でハンガーに迎え入れてくれたのは、チームの顔であるボルトンだ。

45歳のボルトンは、かつてチリ空軍に所属し、空軍のエアロバティックチームのリーダーも務めた凄腕パイロット。だが、そんなお堅い印象の経歴とは裏腹に、レゲエ好きで、いつもにこやかにメディアやファンに対応してくれる。

 

 

ボルトンがレッドブル・エアレースに挑むのは、今年で2年目。厳密に言えば、2016年の第7戦に急きょチャレンジャークラスから昇格し、その年、2レースを戦っているのだが、フルシーズンの参戦は2年目ということになる。

 

 

太陽に照らされ、ひと際輝くシルバーのハンガーで、さっそくボルトンにチームスタッフを紹介してもらおう。

まずは、テクニシャンの西村隆。かつては、室屋義秀のチームスタッフとしてデビューシーズンからともに戦い、その後、ニコラス・イワノフのチームを経て、現在はここでテクニシャンを務めている。

「日本のエアレースファンなら、タカシのことはよく知っているよね。タカシは日本語がうまいから、彼のことは本人から聞いたほうがいいかもしれないけど(笑)。言うまでもなく、すばらしい仕事をしてくれているよ」

ボルトンは、「タカシがレースデイのプラン、例えば何時までに機体のメンテナスを終え、何時にレースのスタンバイに入る、というようなことをすべて立ててくれる」と言えば、西村は、「クリスチャンはそれを僕に任せてくれるので、すごく仕事がやりやすい」と話す。レッドブル・エアレースの世界を長く知る西村の経験値は、チームに欠かせないもののようだ。

 

 

ハンガーを訪れたときはちょうど作業中で、前部のカウリングが外された機体の前には、工具がズラリと並べられていた。西村の手によって、ボルトンの愛機は手際よく整備が進められていく。

 

 

続いては、タクティシャンのロドリゴ・アモリム・トーレス。

「ロドリゴはソフトウェアの開発からトラック分析まで、僕が正確に飛ぶための準備をしてくれている。機体から様々なデータをダウンロードし、とても多くのパラメーターを活用して分析されたフライト結果をもとに、僕らはどのように飛べばいいかをいつも話し合っているんだ」

 

 

そして常駐のチームスタッフとしては唯一の女性、チーム・コーディネーターのダイアン・ローウレンス。

「彼女はチームに関わるすべてのことをやってくれる。機体の輸送やスタッフの移動、エアレース側とのミーティングなど、とにかくすべてだ。そういう意味では、彼女はいわば、チームのボスなんだ(笑)」

日ごろ、メディアの取材依頼などに穏やかな笑顔で対応しているローウレンスの姿を見ていると、「ボス」のイメージはないが、せっかくなので「ボスらしいポーズをお願いします」とカメラを向けると、「ボスらしいってどんなポーズ?」と、照れ笑いだった。

 

 

その他、レース会場には来ていないのだが、西村とともに機体改良と部品開発を行うベン・マイブルもまた、チームに欠かせないスタッフのひとりだ。

「機体に新しいアイディアを加え、効率的に飛べるようにするため、ベンはアメリカにいて多くの時間を費やしてくれている」

最後にもうひとり、忘れてはならないのがボルトンの妻であり、チームのPR & マーケティングマネージャーを務める、「コニー」こと、コンスタンツァ・モヤである。

缶バッジやシリコンバンド、ステッカーなど、いつもファンサービス用のグッズが充実しているクリスチャン・ボルトン・レーシングだが、それらはコニーが中心になって準備されるのだという。

 

 

ルーキーシーズンの昨年から2年目の今年にかけ、ボルトンは必ずしも満足できる成績を残せているわけではない。だが、ボルトンはチームスタッフに支えられてレースに挑む日々を、「とても大きなチャレンジだ」と、前向きにとらえている。

「レースウィークは丸一週間ハードワークしなければならないが、みんなでアイディアを出し合い、成長していけるように毎日取り組んでいる。チームワークは非常に重要なものだし、レッドブル・エアレースに必要なキーファクターだと思っているよ」

 

 

西村が最終調整をしている機体に目を向けると、尾翼上部に少し変わったステッカーが貼ってあった。これは何だろうと、ボルトンに尋ねてみると、「千葉でのレースのときに、日本のファンからもらったんだ」とのこと。「そのとき、機体に貼るからと約束したんだけど、これを見て喜んでくれたらうれしいな」

 

 

そしてもうひとつ、同じく尾翼の下部に貼られていたのが、今は亡き名パイロット、ハンネス・アルヒのステッカーだ。

 

 

ボルトンが2016年のシーズン途中、第7戦からマスタークラスのレースに参戦し始めたことはすでに記したが、その参戦のきっかけが、同年第6戦後に起きたアルヒのヘルコプター事故だった。これにより、「ハンネスの代わりに、スタンバイパイロットだった僕が入ることになったんだ」

このとき、クリスチャンは突然の参戦決定ながら、アルヒのチームスタッフのサポートを受けて、無事にデビュー戦をこなしたばかりか、初めてとは思えない安定したフライトを見せ、周囲を驚かせた。

「これは2016年10月のファーストレースからずっと貼っているんだ。僕のハンネスに対する敬意の証だよ」

 

 

2年前に故郷のチリからアメリカのフロリダに活動拠点を移したボルトンは、「レースに加え、エアロバティックスを教える教官もしているので、とても忙しい日々を送っている」という。

「やはりアメリカは航空マーケティングが大きく、部品の調達や機体の調整などはとてもやりやすい。もちろん、母国で活動したい気持ちはあるけれど、まだ難しいというのが現実だね」

昨年の年間総合成績は13位。全8戦中、ラウンド・オブ・8へ進出できたのは2戦。苦しい戦いが続いているが、ボルトンは「すべてのレーストラックに特徴があり、1、2mのちょっとしたラインの違いがタイムに影響してくる。レッドブル・エアレースは非常に要求が厳しい競技。でも、それが楽しいんだ」と、笑顔を見せる。

「すべてのチームが競い合い、パイロット同士はライバルではあるけれど、友達でもあり、同僚でもあり、とてもいいバランスでレースができているよ」

 

 

作業を終えた西村が「正直に言って、うちは他のチームよりも機体改良では一歩遅れている」と認めるように、クリスチャン・ボルトン・レーシングは現時点で優勝争いに加わるのは難しい状態にある。しかし、だからと言って、決して勝負をあきらめているわけではもちろんない。西村が続ける。

「例えば、他のチームはウイングレットの導入が進んでいるけれど、うちはまだ。でも、そんな"ノーマル"な状態で、一度くらい勝ってみたいですね」

そんなチームの意気込みを裏づけるように、ボルトンは今回の第4戦でラウンド・オブ・8進出。初のファイナル4進出は逃したが、予選も含め、安定してスピードに乗ったフライトを見せることができていた。西村がうれしそうに語る。

「まだまだ機体重量が重いんですが、言い換えれば軽くする余地はあるということだし、エンジン出力を上げる余地も残っている。それらが改良されれば、もっともっと速くなるということです」

デビュー2年目。ボルトンは頼もしいチームスタッフとともに、日々成長を続けている。

 

(Report by 浅田真樹)

 

【ハンガーレポート】

#1:Matthias Dolderer Racing

#2:Team Goulian

#3:Blades Racing Team