ハンガーレポート #6: Red Bull Team Sonka

念願のワールドチャンピオン獲得を目指すソンカのハンガーに潜入

2018年のレッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップも、9月15、16日にウィーナー・ノイシュタットで行われた第6戦がヨーロッパラウンドの最終戦。あとはアメリカでの2戦を残すのみだ。

ヨーロッパは各国が陸続きという利便性もあり、国をまたいで応援にかけつけるファンが少なくない。なかでもヨーロッパラウンドのレースでよく見かけるのが、チェコ出身のマルティン・ソンカ、ペトル・コプシュタインを熱烈応援する、"チーム・チェコ"のファンたち。とりわけ第6戦が行われたオーストリアはチェコの隣国とあって、ファンが大挙来場。さながら、チーム・チェコのホームレースと化した。

そんなファンの大声援のなか、第4戦からの3連勝を狙ったのが、マルティン・ソンカ率いるレッドブル・チーム・ソンカだ。8月のカザンで自身通算4勝目を挙げ、チャンピオンシップポイントランキングでも2位に躍り出るなど、このところ最も調子を上げているチームのハンガーを訪ねた。

 

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レース中は、冷静かつ落ち着いた印象が強いソンカだが、ハンガーを訪れると笑顔で歓迎。これも調子のよさの証だろう。

 

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レッドブル・エアレースは第6戦からから全チームのハンガーが新しくなり、全体を覆う幌の部分の材質が変わったり、デザインが変わったりと、これまでとは印象が変わったチームが多いが、レッドブル・チーム・ソンカのハンガーにも、ソンカの顔が大きく描かれた。

 

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ハンガーの真ん中に鎮座する機体は、レッドブル・エアレースの生みの親、ピーター・ベゼネイの引退にともない、彼から引き継いだものだ。もちろん、パイロットの特長に合わせた大幅な改造が施され、現在に至っている。

 

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チームカラーの赤、青、白は、レッドブルを表すと同時に、チェコの国旗の色でもある。ハンガー内の機材はこの3色でまとめられたものが多い。

 

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とにもかくにも、今回のレースではソンカの注目度は高かった。チャンピオンシップポイントランキングでトップを狙える位置にいる優勝候補であることはもちろんだが、隣国での開催ということも手伝って、ソンカのもとへは次から次へと取材が押し寄せていた。その一つひとつに、ソンカは丁寧に対応していく。

 

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チェコのファンには、ソンカのパイロットナンバー「8」のロゴがデザインされたTシャツを身につけたファンが数多い。今回のレース会場でも、このマークをあちらこちらで見かけることができた。

 

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ソンカを支えるチームスタッフは全員で4人。ひとりずつ、ソンカに紹介してもらう。

「まずは、コミュニケーションマネージャーのイヴァン・クラコラ。主にメディア対応のマネージメントをしてくれる。何と言ってもヒゲが特徴的なので、見ればすぐに分かるよね」

メディアだけでなく、スポンサーの対応などにも当たるクラコラは、ハンガーを空けることも多く、レースデイはあちこちを飛び回る。

 

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続いては、「テクニシャンのペトル・フランティシュ(写真左)と、タクティシャンのランス・ウインター(写真右)。彼らが、僕のフライトを支えてくれている。ペトルはフライトをシミュレーションし、最適なラインを見つけ出し、戦略を練ってくれる。一方のランスは、過去にマイク・マンゴールド、カービー・チャンブリスというふたりの世界チャンピオンのチームで機体整備を担当した、経験豊富なテクニシャンだ。イヴァンも含め、彼らはみな、責任を持って仕事をしてくれるハードワーカー。互いのことを理解し合っているので、チームワークも非常にいいんだ」

 

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そして最後に、ソンカの実兄でもあり、チームコーディネーターのジョセフ・ソンカ(写真左)。ソンカによれば、「実の兄が僕を支えてくれていることの意味は、ものすごく大きい」という。

「ジョセフは僕のすべてを分かってくれていて、フライト後にはベストのフィードバックをしてくれる。兄が支えていることのアドバンテージは、それはもう、本当に大きなものがある」

そしてソンカは、「もちろん、ジョセフだけでなく、すべてのスタッフを信頼していることは言うまでもないけどね」と、つけ加えることも忘れなかった。

「これで5人全員紹介したよね」と言うソンカに、「まだ4人しか聞いていないけど」と伝えると、「いや、うちは5人のはずだよ。えーっと、あとは誰だ......」と、こちらのメモをのぞき込むソンカ。すると、「そうだ、僕を含めて5人だから、これでいいんだ。5人目は僕だよ」と苦笑い。トップパイロットの思わぬ"天然ぶり"も垣間見えた。

 

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今年第4、5戦と連勝し、その好調ぶりが際立つソンカだが、何か秘密があるのではないかと尋ねると、「特別なことはしないし......」と首をひねり、「そうだ、スペシャルドリンクならあるよ」と一言。手にしたのは、レッドブルだ。「これが僕のパワーになっているよ」とにっこりと笑い、ソンカが続ける。

「どのチームにもスペシャルな準備があるのかもしれないけれど、そんなことを互いに教え合ったりすることはないし、だから、自分たちが特別なことをしているのかどうかは分からない。あるとしても、それは自分たちだけの秘密じゃないのかな」

ソンカというと、フライト前にハンガー内で縄跳びをしている姿がよくテレビにも映し出されているが、ジョセフによれば、これも「特別なことでも何でもないよ。ただのウォーミングアップ。体を温めるためにやっていることで、そのへんを走って一回りしてくるのと同じだよ」とのこと。精神集中の意味もあるのではないか、と突っ込んでみても、「そんなに深い意味はないんだけどな」と、逆に戸惑われてしまった。

 

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兄弟ふたりにあれこれと話を聞きながら、テニシャン・ミーティング出席のため、少しの間ハンガーを離れていたウィンターが戻ってくるのを待って、全員で集合写真。長身の男たちがずらりと並ぶ様子は、他のチームにはない迫力があった。

 

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ソンカがテレビ取材に"横取り"されてしまったため、ジョセフに、もう少し話を聞くことにする。実弟マルティンの成長についてだ。

「すべてのスポーツがそうだと思うが、勝つためには、経験、才能、ハードワーク、そして常に学ぶこと。それにメンタルコントロールも大切だ。加えて、レッドブル・エアレースでは、天候やレーストラック、風の方向なども変わるので、そのすべてをシミュレーションしなければならないが、実際に飛んでみると、事前の分析とは違う結果になることも多く、そのときには別のアプローチを試してみると、新たな答えが見つかったりするんだ」

そして、ジョセフは達観したように言う。

「レッドブル・エアレースを勝つためには、やはり運も必要だよ。レースとは、100個のパズルを揃えるようなもの。そのすべてが揃ったとき、カザン(の第5戦)のように勝てるんだ。昨年の僕らには運がなかったんだ」

昨年のシーズン最終戦。ソンカはチャンピオンシップポイントランキングでトップに立っており、仮にランキング2位の室屋義秀が勝ったとしても、このレースで2位になれば、年間総合優勝を手にすることができた。にもかかわらず、ファイナル4で失速。悲願のタイトルはその手からこぼれ落ちた。

「マルティンは最終戦でナーバスになりすぎ、大きなプレッシャーを感じていた。その結果、ミスを犯してしまったんだ」

ジョセフは、「だが、昨年のことは、マルティンにとって大きな経験となっている」と言い、こう続ける。

「通算4勝目を挙げたカザンでの第5戦では、ファイナル4でもよりリラックスして飛べるようになっていた。すべてのレースでギリギリの勝負を挑むことはリスクがある。余裕を持って、落ち着いて飛ばなければならない。だからこそ、チャンピオンシップランキングは気にしない。年間総合優勝を狙える位置にいるのは確かだし、昨年より近づいているとも感じるがが、あくまでも次のレースだけにフォーカスしている」

 

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"準地元"のレースとあって、メディア向け、スポンサー向け、スカイラウンジの観客向けと、ハンガーウォークの時間では、常に多くの人が集まり、賑わいを見せていたレッドブル・チーム・ソンカのハンガー。だが、ソンカは、そしてチームスタッフは、多忙な時間を過ごしながらも、レースになれは勝負に徹する。

今回の第6戦でも、常に全体上位のタイムで勝ち上がり、ついに3連勝を果たした。過去に3連勝というと、マイク・マンゴールド、ハンネス・アルヒ、ポール・ボノムという歴代世界チャンピオンしか成し遂げていない大偉業。そんなレジェンドたちに肩を並べたことになる。

昨年の屈辱を晴らすべく、レッドブル・チーム・ソンカの勢いはますます加速している。

 

(Report by 浅田真樹)

 

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