ハンガーレポート #7: FLV Racing Team 12

自己最高のシーズンを送るフランス人エースパイロット。その飛躍の秘密を探る。

今年のレッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップは、稀に見る混戦だ。

マイケル・グーリアン、マット・ホール、マルティン・ソンカのトップ3が、激しい優勝争いを繰り広げているばかりでなく、4位以下を見ても、わずかなポイント差で11人のパイロットがひしめいている。それだけ各パイロット、チームの力の差が小さくなってきているということだ。

そんな混戦模様の演出に一役買っているひとりが、フランソワ・ルボットだろう。

マスタークラスにデビューして4年目となるルボットは、昨年まで苦戦を強いられるのが常だった。昨年にしても、チャンピオンシップポイントランキングは最下位の14位。ラウンド・オブ・8に駒を進めたのは二戦にすぎず、総獲得ポイントはわずか9に終わっている。

ところが、今年、第6戦終了時点でラウンド・オブ・8進出は自己最多の4戦。総獲得ポイントはすでに20に達し、チャンピオンシップポイントランキングでも7位につける。

そこでアメリカ・インディアナポリスでの第7戦を前に、FLVレーシング・チーム12を訪ねた。

 

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日本のメディアを見つけると、どこで覚えたのか、片言の日本語でいつも話しかけてくれるルボット。快くハンガーのなかを見せてくれた。

 

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ハンガー内でまず目を引くのは、大きく描かれたルボットの姿。フランス空軍出身で、エアロバティックスの世界選手権やフランス選手権で何度も優勝経験があるルボットは、まさにエリート中のエリートだ。

 

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昨年からチームカラーが一新され、機体はそれまでの黒から鮮やかな緑色に変わったが、ルボットは冗談まじりに「ワサビ色」と表現する。昨年までは「エンジンの調子がよくなかったが、調子が上がってくるのを待っていた。ようやく今年、そのときが来た」とルボット。機体改良の成功が成績向上につながっているようだ。

 

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ワサビ色の機体には、ルボットの母国フランス国旗の「トリコロール」、すなわち赤、白、青の三色があちらこちらにあしらわれている。

 

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それでは、ルボットにチームスタッフを紹介してもらうことにしよう。

まずは、テクニシャンのトビアス・オデワルド。オデワルドは、2016年のマティアス・ドルダラーの年間総合優勝に貢献した凄腕の整備士だ。

「彼はレッドブル・エアレースの経験が豊富で、いいアドバイスをしてくれる。彼のことはエアレース参戦前から知っているけど、こうして一緒に仕事をすることは僕にとってもすごくいい経験になっている。多くのアイディアを持っていて、飛行機をとても大事に扱う優れたエンジニアだよ」

 

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続いては、タクティシャンのハルトムート・シーグマン(写真左)。シーグマンは今季途中、前任者に代わってFLVレーシング・チーム12に加わった。

「彼はレーストラックの問題点を発見し、ベストラインを導き出してくれる。おかげで、僕のフライトはよりダイナミックなものになるし、フライトにミスがあったとしても、効率的に修正できる。また、彼はテクニシャンであると同時に、空力の分野に優れたエンジニアでもあるので、機体の調整にも力を貸してくれているんだ」

そして最後に、チーム・コーディネーターのフィリップ・アルベロラ(写真右)。ルボットがマスタークラスにデビューした2015年からチームスタッフを務める。

「彼は航空事業の会社のオーナーでもあり、僕と日々同じハンガーで活動をしている。僕のすべてを知っている頼れる存在だ。デビュー以来、ずっとチームを支えてくれている」

 

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ちなみに、ルボットとアルベロラはフランス人、オデワルドとシーグマンはドイツ人。集合写真の撮影をお願いしたときには、ルボットがフランス語でみんなに呼びかけていたので、チーム内の共通言語はフランス語なのかと思いきや、「ときどきフランス語とドイツ語が混じるけど、基本的には英語。国籍は違ってもいい関係を作れているよ」とのことだ。

 

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強面で大柄な男たちがこうして一同に会すると、なかなかの迫力。というより、ちょっと怖いくらい。他のチームではあまり見ることのできない独特の雰囲気が漂う。

 

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とはいえ、失礼ながら見た目とは異なり、チームスタッフの誰もがジョークが大好きで、イタズラ好き。冒頭のルボットの写真を撮っていたときも、アルベロラとオデワルドがそっと後ろから近づき、素知らぬ顔で一緒にポーズ。これに気づいたルボットは、思わず苦笑いだった。

 

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チームワークのよさが垣間見えたついでにお伝えしておくと、FLVレーシング・チーム12はオリジナルウェアだけでなく、シューズまでお揃い。足元までしっかりとカラーコーディネートされているチームは、珍しい。

 

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また、オリジナリティという点では、シーグマンがはいているドイツ南部の民族衣装、レーダーホーセン(革の半ズボン)もなかなか手の込んだ代物だ。これはオリジナルの特注品で、「伝統的なババリアンスタイル(南バイエルン地方の草花柄)と一緒に、飛行機の刺繍が施されているんだ」(シーグマン)。

 

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チームスタッフにも話を聞いてみる。ズバリ"ルボットの飛躍の秘密"についてだ。

長年ルボットと仕事をしてきたアルベロラは、「フランソワはいい準備をし、フライトだけにフォーカスできるようになった。もちろん、結果が出ていることで自信もついてきた」と話す。

「今年、フランソワの成績が安定している理由はひとつじゃない。一つひとつは細かいことでも、多くのことが変わったんだ。スタッフも、機体も、エンジンセッティングも、ウイングレットも、ライン取りも、そうしたことの変化がすべて一緒になってうまくいっている」

そして、オデワルドが明かすのは、今年から導入された「秘密兵器」の存在だ。

「新しくフライングシミュレーターができたんだ。そんなに大掛かりなものではなく、ラップトップPCとスティック、それにゴーグル式のディスプレイという装置だけど、このゲートを通るときには周りにはこういう景色が見えるといったように、360度レーストラックのすべてを完全に再現できる。これは大きなステップだ。家にいながらにして、レースを何度も飛ぶことができるんだからね。ひとつのラインを試してうまくいかなかったときに、また違うラインを試すことができるんだ」

 

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アルベロラの言葉を裏づけるように、ルボットはレッドブル・エアレースの難しさについて、「僕はパイロットだけど、チームをまとめるリーダーであり、スポンサーとの交渉担当であり、といったように、飛ぶこと以外にもやることがたくさんある。フライトだけに集中することは難しい」と語る。いかにパイロットとして優秀でも、その能力を発揮するための環境作りは、簡単ではないということだ。

だが、今年のルボットは「フライトにフォーカスできている」。それこそが、今年の好調の理由だという。「でも、まだまだ細かなミスがたくさんあり、それを修正していけば、もっとよくなる」。さらなる向上の余地はまだ残されているようだ。

ただし。ルボットはそうつないで、話を続ける。

「エアレースは人生の一部にすぎない。勝つことだけが重要なわけではないんだ。だから、僕は勝つために多くのリスクを取るようなことはしないし、安全であることこそがパイロットとしてプロフェッショナルだと思っている。そう、僕はプロフェッショナルでありたいんだ」

ルボットは今回の第7戦で、残念ながらラウンド・オブ・14敗退に終り、チャンピオンシップポイントランキングも9位に後退した。だが、依然として過去3年の最終順位を上回っており、自己最高成績を残す可能性は十分にある。

ようやくポテンシャルが開花し始めたエリート・パイロットが、今年最後のフォートワースでのレースをどう締めくくるのか楽しみだ。

 

(Report by 浅田真樹)

 

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