インディアナポリス 予選レポート:思い出の聖地で一年ぶりの勝利を目指す

劇的な逆転優勝から1年、室屋義秀が"モータースポーツの聖地"に帰ってきた。

「もうあれから1年経ったんですね。ここのスタッフの人たちも、僕の顔を覚えてくれていて、声をかけてくれるのでうれしいです」

室屋は、インディアナポリス・モーター・スピードウェイで行われた昨年のレッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ最終戦に勝利。第7戦終了時点でチャンピオンシップポイントランキングのトップに立っていたマルティン・ソンカを逆転し、悲願の年間総合優勝を果たした。

 

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©️Joerg Mitter / Red Bull Content Pool

 

ここインディアナポリス・モーター・スピードウェイは、室屋にとって決して忘れることのできない思い出の地である一方で、モータースポーツに造詣が深い会場スタッフの人たちも、敬意を持って世界チャンピオンに接してくれている。

ただ、少々残念なのは、せっかくの"凱旋レース"にもかかわらず、すでに室屋の連覇の可能性がなくなってしまったことである。

現在、チャンピオンシップポイントランキング首位のソンカと、同4位の室屋とのポイント差は30。室屋が残り2戦に連勝すれば、ポイントのうえでは並ぶことができるが、その場合、優勝回数が多いほうが上位となるため、すでに3戦で優勝しているソンカには及ばない。

奇跡の逆転劇を再び――。そんな期待を持って、ここでのレースを見ることはもはやできないのだ。

だが、当の本人は「それはもう前のレースで決まってしまったことだから」と、そっけない。

 

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©️Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool

 

「全14チームのうち、13チームは優勝できないわけですから、もう(年間総合優勝の可能性がなくなったことを)特別に意識することはありません」

しかし、だからといって、室屋が戦意を失ったわけではない。

「連覇の可能性とは関係なく、来年に向けた準備はすでに始まっているし、やはり一戦一戦積み上げていくことが、来年もう一回タイトルを取りに行くためにはかなり大事なんですよね。だからこそ、ここからの2レースをしっかり戦っておきたいと思っています」

来年への準備。その点において非常に重要な意味を持つのが、今回のレースからチーム・ファルケンが投入を決めたウイングレットだろう。

 

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©️Balazs Gardi/Red Bull Content Pool

 

飛行時に翼の先端部で発生する空気の渦を抑制することで、空気抵抗を減らす効果があるというウイングレット。小型機が0.001秒を競うレッドブル・エアレースにおいては、その効果にかつては懐疑的な見方もあったが、最近ではより正確な計算ができるようになり、各チームでの導入が進んでいる。チーム・ファルケンも一昨年に導入を決めながら、レース運営サイドからサイズの問題(前例がないほど大きかった)を理由に使用の許可が下りず、一度は断念していたのだが、ようやくここに来て、実戦投入されることになったのだ。室屋が頬を緩めて語る。

「ウイングレットの開発は簡単にできるものではなく、うちの場合も9カ月くらいかかりました。レース前にテストが必要であることを考えると、(第7戦後に1カ月以上のレース間隔がある)テキサスでの最終戦には十分投入できるだろうという見通しでしたが、少し前倒しで今回のレースに間に合うことになりました」

もちろん、実際にレーストラックを飛んでみて、「その結果次第では、元(のウイングチップ)に戻すことも想定していたが、悪くない解析結果が得られた」ことで、最終的には予選前日の公式練習終了後に、正式投入が決定した。

予選結果を見ても、"新兵器"の成果は上々と言っていいのだろう。

 

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©️Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool

 

昨年のレーストラックとまったくレイアウトが変わっていない今回のレースは、昨年のタイムが目安になる。室屋が昨年、ファイナル4で1分3秒026を記録していることを考えれば、今年の予選タイム、1分6秒273は一見したところ、あまりにも物足りなく映る。

だが、この日のインディアナポリスは、気温が30度を超えたばかりか、湿度も80%を超えていた。湿った空気が肌にまとわりつくような気象条件では空気密度が低くなり、どうしてもエンジンパワーが落ちてしまう。

室屋曰く、「今シーズンは比較的涼しくて快適なレースが多かったので、今回が一番厳しい条件かもしれない。全然スピードが出ないから、オーバーGの心配もまったくない。(DNFになる)12Gどころか、10Gにも届かないくらいです」。上位勢が1分6秒台前半にとどまっている状況は、昨年と比べると、かなりタイムが落ちているようにも思えるが、そこに心配はないようだ。

 

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©️Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool

 

加えて、予選当日は風がかなり強く、パイロンを大きく揺らしていた。しかも、気まぐれな風はしばしば強さが変わるため、「フライトのタイミングによって、運不運がかなりあった」という。予選3位のマット・ホールから10位のベン・マーフィーまでが1分6秒台に収まるなか、トップのソンカだけが1分4秒台、2位のフアン・ベラルデだけが1分5秒台という、不自然な結果に終わっているあたりは、そうした風の影響があったのかもしれない。

とはいえ、「ソンカは速いですね。あのタイムはちょっと......、風の影響がたぶんあったと思うんですけど、それにしても速い。安定していますね」と、室屋は現在チャンピオンシップポイントランキングのトップに立つチェコ人パイロットに注意を払う。

現在3連勝中のソンカは、今回のレースで前人未到の4連勝を狙っている。今回のレースもまた、やはりこの男を中心に優勝争いが繰り広げられることになりのだろう。

 

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©️Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool

 

もちろん、室屋もその争いに加わる有力候補であることは間違いない。

年間総合優勝の可能性がなくなったとはいえ、「チームは落ち着いて淡々と前に進んでいるので、悪くないですよ」。年間総合での表彰台の可能性は、まだわずかながら残っており、「自分自身のフライトはいい感じなので、あとはトップ3がつぶし合ったり、ポイントを取りこぼしてくれたりするのをひたすら待つだけかな」。室屋は冗談めかしてそう語るが、こぼれる笑みからは機体も含め、自身の調子のよさがうかがえる。

「明日(レースデイ)は風が弱まりそうなので、今日以上に実力勝負になると思うので楽しみです」
狙うは当然、インディアナポリス連覇。モータースポーツの聖地で、1年ぶりの美酒を浴びることである。

 

(Report by 浅田真樹)

 

■Information

第7戦インディアナポリス、予選の結果はこちら>>

 

 

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©️Mihai Stetcu/Red Bull Content Pool

 

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©️Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool

 

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©️Joerg Mitter/Red Bull Content Pool

 

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©️Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool

 

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©️Joerg Mitter / Red Bull Content Pool