開幕戦アブダビ RACE REPORT:2位ながら圧倒的な実力を感じさせたチャンピオンのフライト

負けてなお強し――。ディフェンディング・チャンピオンの室屋義秀は新シーズン初戦にして、それを確かに印象づけた。

レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップの2018年開幕戦。室屋はラウンド・オブ・14、ラウンド・オブ・8でともに全体トップのタイムを叩き出して勝ち上がり、優勝が期待されたものの、ファイナル4では優勝したマイケル・グーリアンに0.29秒届かず、2位となった。室屋はこのレースでの優勝とともに、昨年の第7戦から続くシーズンまたぎの3連勝も逃したことになる。

とはいえ、今年の開幕戦において室屋の強さは際立っていたと言っていい。

決して相手をねじ伏せるような圧倒的なタイムを出し続けたわけではない。単純にタイムを比較すれば、室屋はこの日、自身の予選タイムを一度も上回れていない。だが、前日の予選からファイナル4まで、このレースのすべてのラウンドで53秒台を記録したのは、全14パイロットのなかで室屋ただひとり。レース全体を通じ、安定して高水準のタイムを記録するという点で、室屋の力は群を抜いていた。

 [©︎]Balazs Gardi/Red Bull Content Pool

 

過去、優勝と3位はあったものの、これまで不思議と縁がなかった2位のトロフィーを初めて手にした室屋。表彰式を終え、納得の表情で口を開く。

「かなり手ごたえのあるレースでした。チームのセットアップもうまくいっていて、機体の状態やパイロットのコントロールも含めて、かなり余裕のある感じで飛ぶことができていました。優勝はできませんでしたが、こんな感じは初めてかもしれないです」

室屋がなぜ同水準のタイムをすべてのラウンドで揃えることができたのか。その理由を一言で言えば、室屋の言葉にもあるように、限界まで攻めることをせず、常に余裕を残して飛ぶことができていたからである。

にもかかわらず、簡単には届かない53秒台というタイムを確実に出されたのでは、他のパイロットたちがそうそう室屋を上回れたはずはない。必然、室屋と対戦することになったパイロットは、ハイリスクを承知で一か八かの勝負に出るしかなかった。ラウンド・オブ・14で対戦したピート・マクロード(水平に近いバーティカルターンに挑んで、オーバーGでDNFとなった)は、その最たる例だろう。室屋が「ピートのオーバーGは完全にそう(一か八かの勝負に出た)だったと思います」と語り、こう続ける。

 [©︎Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool]

 

「ひところ、ポール・ボノムが圧倒的に強かったとき、他のパイロットたちが彼とは当たりたくないと思うような雰囲気がありましたが、それに近い感じになっている気はしますし、そんな雰囲気を作り出していけなければいけないと思っています。そのためには、いいタイムを出してもグチャグチャに乱れたフライトでは意味がない。(タイムだけでなく)フライトの質も含めて、見せていく必要があると思いますね」

実際、ファイナル4ではグーリアンのスーパーラップに届かなかったように、ライバルたちの大博打が吉と出るケースは、もちろんあるだろう。余裕を持ったフライトを続けるだけでは、常に優勝できるとは限らない。だが、シーズン全体、すなわち8戦をトータルで考えたとき、最も安定した成績を残せる可能性が高いフライトを見せていたのは、室屋だった。ディフェンディング・チャンピオンは表彰台の一番上にこそ立てなかったが、自身が今年の年間総合優勝の有力候補であることをここではっきりと証明した。

「これが我々、チーム・ファルケンが目指す2018年のスタイル。戦略通りに飛んでの2位ですから、満足しています。今日は自分たちのスタイルが、絵に描いたようにうまくいきましたね」

室屋は誇らしげにそう語る。

 [©︎Andreas Langreiter / Red Bull Content Pool]

 

だが、そんな言葉とは裏腹に、ファイナル4のフライトを終えた直後、タイムと順位を伝えられた室屋はコックピットのなかで大きく天を仰いだ。正面に向き直り、カメラに映し出された表情は、思いのほか悔しそうに見えた。

少しばかり意地悪な質問と知りつつ、室屋に尋ねる。本当は悔しかったのではないですか、と。

「ラウンド・オブ・8に入ったころから、風がなくなり、徐々に全体のトラックタイムが落ちてきているのは分かっていました。でも、ファイナル4の段階で、どこまで落ちているのかまではつかめていなかった。グーリアンのタイムは離陸直前にもらって知っていたので、結構いいタイムだなとは思いましたが、追いつくかもしれないと思って飛んでいたのは確かです。事前に53秒7くらいをターゲットタイムに設定して、ラウンド・オブ・8よりは少しプッシュしていったので、フィニッシュした直後はギリギリ届いたか、届かなかったとしても10分の1秒差くらいまでは来ているかなと思ったんですけど......、そこにも及ばなかったので、『あー、残念。優勝じゃなかったか』と(苦笑)」

そして室屋は冗談めかし、「ここ2戦、優勝が続いていたので、優勝慣れしていたのかな。2位だとはしゃぎきれませんね」と言って笑うと、ひと呼吸おき、こう続けた。

「でも、十分うれしいですよ」

 

年間総合の連覇へ向け、「開幕戦としては上々のスタート」と室屋。それでも、「(マティアス・)ドルダラーとグーリアンの機体はかなり速くなっている。この状態で競い合うとすると、今後は結構リスキーな展開を取らないと勝てなくなる可能性がある」と気を引き締める。

だからこそ、フランス・カンヌで行われる第2戦までの2カ月近いレース間隔を有効に使い、「(機体の改良に)大幅に手を入れる予定にしています」と室屋は言う。

「次のレースまでには、(機体が)かなりよくなるはずです。少なくとも、シーズンオフの間にドルダラーやグーリアンの機体がアップデートされた分くらい、こちらも改良が進む予定です。自分たちだけでなく他のチームもやるでしょうから、どれだけのアドバンテージが得られるかは分かりませんが、次戦までに他よりも半歩前に出られるんじゃないかな。それくらいのセッティングにしたいと思っています」

 [©︎Balazs Gardi/Red Bull Content Pool]

 

"年間総合優勝のために最も重要な要素となるのは安定だ"と、レッドブル・エアレースに参戦するすべてのパイロットが口を揃えるなか、室屋はそのキーファクターにおいて抜きんでた力を見せた。もしも次戦までに機体の改良が予定通りに進み、本当に他陣営の半歩前に出られるようなら、その強さはいよいよ盤石なものになる。それほどに、今年初戦の室屋には安心して見ていられる強さがあった。

 

(Report by 浅田真樹)

 

■Information

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[©︎oerg Mitter / Red Bull Content Pool]

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[©︎Joerg Mitter / Red Bull Content Pool]

[©︎Joerg Mitter / Red Bull Content Pool]