カザン予選レポート:想定外の展開に、火が付く闘争心

前日まではまったく予想できない、まさかの展開だった。

「1本目はペナルティがなければ、タイム自体は悪くなかったんですけど、あれは自分のミスですね」

今季4戦のうち2戦を制し、現在チャンピオンシップポイントランキングで堂々のトップに立つ室屋義秀は、予選1本目のフライトで犯したインコレクトレベルのペナルティについて、潔く自身のミスを認めた。

「集中状態がほんのちょっと崩れるだけで、ああなってしまう。今はまだ、いわゆるゾーンの域、あるいはそれに近いレンジまで完全に入れるかどうかギリギリのところで、そのコントロールが非常に難しい。スタートするときに、自分でもそこまで入り切っていないのが分かるんですが、それを一瞬では引き戻せない。これが完璧にコントロールできるようになれば、ポール・ボノムのように安定して勝てると思うんですが、安定して勝ち続けるにはまだメンタル的に課題がある。まだまだトレーニングが必要だなと思い知らされました」

だが、予選2本目のフライトは、室屋にとってもにわかに信じがたい結果だった。

「2本目は、自分の感覚としては出来がよかったので、フィニッシュした直後は、これなら1本目の(ペナルティを除いた)タイムよりも、少し速いだろうと思っていたんです」

ところが、無線を通じて聞かされたのは、57秒847。室屋が耳を疑ったタイムは、1本目のランタイム(56秒464)より1秒以上も遅れていた。

 

レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ第5戦。室屋はこの予選で、まさかの9位に沈んだ。今季ここまでの予選のなかでは、明らかなエンジンの不調があった開幕戦(10位)を除けば、最低となる成績である。

予選前日の公式練習を見る限り、室屋は最近の好調ぶりを依然維持しているかに思われた。

公式練習の1回目こそ、「こんな感じかなと、だいたいの感覚で飛んでみた」結果、パイロンヒットを犯したが、2回目にはただひとり56秒台という、他を圧倒するタイムを残していた。

室屋は予選日の朝、「今日はみんな、もう少しタイムが上がってくるかもしれないけれど、あのへん(自分が2回目の公式練習で出した56秒972)が限界じゃないかな」と語り、みなぎる自信を隠そうとはしなった。

しかし、実際に予選のフライトが始まってみると、室屋の予測を上回るタイムが続出した。
6番目に飛んだ(つまり、チャンピオンシップポイントランキングでは9位の)ニコラス・イワノフのタイムが、早くも56秒台に突入すると、その後もマイケル・グーリアン、カービー・チャンブリス、マルティン・ソンカが56秒台のタイムを記録。さらには、ピート・マクロードが、自ら「ビックリした」と語る、54秒562という驚異的なタイムを叩き出した。

「そのラインを通れば、タイムが大きく縮まるのは分かっているけど、実際にそこを通るのは無理だよな、というライン。ピートはブダペストでもそうだったが、非常にフライトが安定していますね」

室屋もそう認め、「僕らがコンピューターの計算で想定したタイムを上回っていますから。完璧な、というより、完璧以上のフライトだった」と舌を巻くほど、3戦連続の予選トップとなるマクロードのフライトは、まさに非の打ち所がないものだった。

 

それを考えれば、マクロードのタイムに及ばなかったことは仕方がない。だとしても、56秒339で2位のソンカにまで1秒半近く離されてしまう展開は、まったくの想定外である。室屋は「フライトは悪くなかっただけに、1秒以上も遅れるはずがない。2本目は20㎞/h近くスピードが落ちていて、特に2周目でタイムが落ちている。こうなるとメカニカルな部分の問題なのか......、でも、データ上は特に問題が見当たらなくて......」と首をひねり、「やはり1本目のミスが大きかった」と悔やむ。

「公式練習の2回目はベストの状態で飛べていて、それに比べると、今日は力が入っていたんでしょうね。自分ではそんなつもりはなかったけれど、(ゲート2、3、4のところで)安全に行こうとセットアップし過ぎて、(旋回で)振り過ぎてしまう。だから、次のターンも大きくなって遅れてくるっていうパターンでした」

しかも、タイミングが悪いことに、翌日の天気予報があまり芳しくない。特に午後に入ってからの予報がよくないとあって、下手をすれば、本選レースがキャンセルとなりかねない。すなわち、予選順位がそのまま最終順位となる可能性があるということだ。だからこそ、室屋も事前に「今日の予選は、きっちり飛んでおかないといけない」と語っていた。これほどのハイレベルな予選となったのも、恐らく、すべてのパイロットがここで順位が確定してしまうかもしれないことを承知していたからだろう。

にもかかわらずの予選9位である。ポイントリーダーのパイロットとしては、あまりに痛い結果と認めざるをえない。

だが、このままでは終われない。それもまた、ポイントリーダーが果たすべき役目だろう。室屋は「まずは天気がよくなるように祈らないといけないけれど」と冗談めかして言い、こう続ける。

「簡単に、と言ってしまうと語弊がありますが、前回のブダペスト戦なんかはほとんどレースをせずに、プレッシャーだけで(相手が勝手にオーバーGを犯し)ポンポンと勝っちゃった感じだった。だから今回は、本当に世界チャンピオンになる資格があるのかどうか、それを試されている。そんな感じありますね。でも、簡単じゃないからおもしろい。ピートみたいなヤツが出てくると、『コノヤロー、こっちだって負けねえぞ』みたいな気持ちになりますからね」

 

もしかすると、室屋もチャンピオンシップランキングで初めてトップに立ったことで、知らず知らずのうちに守りに入っていたのかもしれない。それが少なからずフライトにも影響した。そんな可能性も否定はできない。

だが、同期デビューのマクロードに、いわば頬を張られ、室屋は目を覚ました。それが今回の予選だったのではないだろうか。

「自分が一番だと、他はあまり参考にならないので、自分のデータだけ見て満足して終わっちゃう。これじゃあ、つまらないですよね。速いヤツがいると、研究する材料がいっぱいあるからワクワクする。これこそが、エアレースのおもしろみですから」

果たして、ポイントリーダーはどんな反攻を見せるのか。まさかの予選9位には、そんな楽しみが詰まっている。

 

(Report by 浅田真樹)

 

 

■Information
第5戦カザンの決勝レースは7月23日、Red Bull TVにてライブ配信される。