LAUSITZ RACE REPORT:最良のシナリオで繋いだ王座への道

2週間前に行われたレッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ第6戦を終え、室屋義秀はチャンピオンシップポイントランキングで4位まで順位を落としていた。室屋の上には、マルティン・ソンカ、ピート・マクロード、カービー・チャンブリスと3人のパイロットがおり、トップのソンカと室屋とのポイント差は10。仮に室屋が2戦連続で表彰台に立ったとしても、ソンカをはじめとするトップ3がその順位を下回らなければ、ポイント差は縮まらない。

室屋は今回の第7戦を前に、"表向きは"「ガチンコ勝負」を強調していた。

他のパイロットのことを考えても仕方がない。あくまでも自分はベストのフライトをするだけ。結果はおのずとついてくる。そんな心境でレースに臨むというわけだ。

 

しかし残り2戦、室屋は自分がポイントを稼ぐだけでは目指す頂には到達できない。そのうえで、ライバルたちのポイント獲得を防がなければならなかった。

ならば、どうするか。トップ3のパイロットと直接対戦し、勝つしかない。そのためには、ただただ真正面からレースに挑むのではなく、相応の策を施す必要があった。

それでも予選は、ひとまず自分のベストで飛ぶことだけに集中した。室屋が語る。

「もし僕が意図的に最下位になったとしても、マルティンやピートが自分より後に飛ぶので、彼らは予選トップになることを避けるかもしれない。それではラウンド・オブ・14で直接対決はできない。何位になればトップ3と対戦できるかが分からない以上、予選でそこは考えないことにしました」

そして予選3位で迎えた、ラウンド・オブ・14。室屋は自らのフライトを前に、先のヒートで飛んだソンカが50秒617という好タイムを出したことを確認。「このタイムならラウンド・オブ・14全体のなかで上位に来るだろう」。それが十分に予想できるタイムだった(実際、全体で1位だった)。

加えて、室屋の対戦相手であるフランソワ・ルボットのタイムが52秒640と伸びなかったことも幸いした。「これなら僕がラウンド・オブ・14全体のなかで下位になるタイムを出しても、フランソワには勝てる。ちょっと後ろ(の順位)に行って、一発(トップ3と)ぶち当たろう」。室屋はそう決断した。

「これは第6戦が終わってからずっと考えていたことです。(自分も含めた)上位4人がそのままファイナル4に残ってしまうと、ほとんど順位が動かないから。チャンピオンシップを考えるうえでは、あえて自分からぶち当たりに行くしかないなと思っていました」

 

具体的な策はこうだ。

「ライン取りを変えてしまうとリズムが崩れてしまうので、ベストラインからは外れずに、バーティカルターンのスピードだけを抑えることで1周0.5秒、トータルで1秒くらいタイムを落とす計算でした」

ところが、「想定していた以上にペースが落ちてしまい、遅すぎるのが分かったので、これはヤバいかなと思った(苦笑)」と室屋。実際にやってみると、タイムの"操作"は思った以上に難しかった。

中間ラップでは0.1秒以上もルボットに遅れ、まさかの敗退も心配された。どうにか最後は0.592秒差でルボットを上回り、ラウンド・オブ・8進出できたが、室屋自身、「もう0.5秒くらいは速いタイムのはずだった。こんなことは、あまりやらないほうがいい」と言い、引きつった笑いを浮かべるほど、冷や汗ものの勝利だった。

とはいえ、結果として室屋のタイムは狙い通りに全体で6位となり、首尾よくチャンブリスとの対戦が実現した。しかも、室屋が「そこまでは考えていなかったけれど、理想的な展開になった」と振り返ったように、同じくラウンド・オブ・8でソンカとマクロードが対戦することに。室屋にとっては、願ってもみなかった「4強のつぶし合い」となった。

ここまで来れば、あとは正真正銘のガチンコ勝負だった。

ラウンド・オブ・14では"策士、策に溺れかけた"ものの、もとを正せば、公式練習3本目では今回のレースの全セッションを通じて最速となるタイム(50秒004)を記録するなど、間違いなく調子がよかった室屋である。ラウンド・オブ・8では、チャンブリスに0.626秒差をつけて快勝。ファイナル4でも、最初に飛んだマット・ホールのタイムを0.395秒も上回るタイム(50秒451)でトップに立ち、後続にプレッシャーをかけると、続くフワン・ベラルデはインコレクトレベルのペナルティを犯し、大きく後退。最後に飛んだソンカも、室屋に0.513秒遅れた。

 

タイム差を見ても分かるように、最終的には室屋がライバルたちをねじ伏せたと言っていい。サンディエゴでの第2戦を思い起こさせるような強さで、室屋は今季3勝目を手にした。優勝トロフィーを傍らに、室屋は満足そうに語る。

「狙い通りの展開で勝てたので、いいレースだったと思います」

第5、6戦と、2戦連続でポイントが伸びない苦しいレースが続いた分、久しぶりに味わう会心の勝利の味は格別なのだろう。日焼けした顔からは自然と笑みがこぼれる。

「結果は結果でツラいときもありますが、それでもチームとしてはやることを変えずにやるべきことを積み重ねてきた。それをキープできたのがよかったんだと思います。前の2戦はいろいろなマイナス要因が重なって結果が出ませんでしたが、こうやって条件が揃えば勝てることが証明できた。今までのペースを崩さなければ、次の最終戦もいい状態で行けると思います」

室屋はトップとの10ポイント差をひっくり返すために、「ここが最大の勝負レースになる」と見ていた。だからこそ、「優勝できなければ、何位でも同じ」と腹をくくれた。

「逆転するために策を施した結果、下手をすれば、ラウンド・オブ・14で終わっていたかもしれない。いろいろなプランを組んで、すべてがこんなにうまくいくのは珍しいですよね」

室屋はそう言って笑うと、「でも、(いろいろなことを想定し、プランを組んだ分)今回は精神的に疲れました」と大きく息を吐いた。

もちろん、運も味方した。室屋が描いたシナリオとは無関係に、本来自分の力ではどうしようもないことまでが理想的に進んだ。ラウンド・オブ・8でソンカとマクロードが対戦したことはもちろん、ホールが室屋とソンカの間に割って入り、2位になったこともそうだ。室屋本人も「マットがファイナル4でいいタイムを出し、2位に入ってくれたのは大きい。マットの"アシスト"に感謝ですね」と認める。

 

だが、身もふたもないことを言えば、勝つときも負けるときも、勝負とはそういうものだ。この結果、15ポイントを加えた室屋は、チャンピオンシップポイントランキングでマクロード、チャンブリスを抜き返して2位に浮上。トップのソンカには4ポイント差に迫り、最終戦に臨むことになった。

もし室屋が最終戦で優勝してもソンカが2位になれば、1ポイント差で逃げ切られてしまう以上、依然室屋に自力優勝の可能性がない状況に変わりはない。だが、第6戦終了時に比べれば、逆転優勝の可能性が各段に高まったことは間違いない。

ヒリヒリするような優勝争いを楽しむかのように、室屋は言う。

「トップ4には全員、(年間総合)優勝のチャンスがあるので、次にベストレースをした人が勝つことになるでしょうね。だから、インディアナポリスでの結果次第。ここまで来れば、みんな並んでいると言ってもいいし、一発勝負みたいなもの。その代わり、4位までは簡単に落ちちゃいますけどね」

そして、こんなにもあれこれと策をめぐらすレースはもうこりごりとばかりに、こう続けた。

「最終戦は機体の調整と自分自身のトレーニングと準備だけは十分にして、今回のレースみたいにあまり考えないで臨みます」

夢つなぐ勝利。その裏で、戦略は綿密に練られていた。

 

(Report by 浅田真樹)

 

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