室屋義秀:チャンピオンシーズンを語る

激闘の1年を日本のエースパイロットが振り返る

Yoshi in the track

日本のモータスポーツ界に新たなワールドチャンピオンが誕生した。2017年10月15日、室屋義秀がインディアナポリス・モーター・スピードウェイで開催されたシーズンフィナーレを制し、日本人初・アジア人初のRed Bull Air Raceワールドチャンピオンに輝いたのだ。この結果は、長年の室屋ファンにとってサプライズではなかったが、波乱に満ちたシーズンだったため、彼らに歓喜と安堵をもたらすことになった。

米国・インディアナポリスが日曜日午前3時を迎える頃、日本のソーシャルメディア上では "マルティン・ソンカ" の名前がトレンドワードになっていた。ワールドチャンピオンを争うソンカと室屋義秀がラウンド・オブ・14でいきなり対戦することが決定し、このチェコ人パイロットに大きな注目が集まっていたからだ。

ラウンド・オブ・14は室屋が先にフライトしたが、インコレクトレベルのペナルティで2秒を加算されてしまった。しかし、室屋はそこまで心配していなかったと振り返る。「2秒加算のペナルティを受けたことは分かっていましたが、実際のタイムはかなり良かったんです。(ペナルティを加算しなければ)1分4秒台なら、ラウンド・オブ・14を勝ち抜けるチャンスは十分にあると思っていました。フライト後の待機飛行で、上空からマルティン(ソンカ)のフライトをビッグスクリーンでチェックしていました。前半のマルティンはグリーン(室屋のスプリットタイムより先行している状態)でしたが、最後にレッド(室屋のスプリットタイムより遅れている状態)に変わりました。大喜びで着地しようとしましたが、あまり上手くできませんでしたね(笑)」

しかし、ラウンド・オブ・14でパイロンヒットのペナルティを犯して万事休すかと思われたソンカも、敗者最速としてラウンド・オブ・8に残った。3秒加算のペナルティを受けたパイロットが次のラウンドへ進出することは極めて異例だ。

冷静沈着にインディをフライトする室屋

ラウンド・オブ・8でミカエル・ブラジョーを撃破した室屋はファイナル4で再びソンカと対峙することになった。室屋が逆転でワールドチャンピオンを獲得するには優勝が最低条件で、なおかつソンカが3位以下に終わる必要があったが、1番手でフライトした室屋は1分3秒026というトラックレコードを更新するタイムを叩き出した。この驚異的なタイムには、ライバルたちはもちろん、室屋も驚きを隠せなかったようだ。「1分3秒台という自分のタイムを見た時は信じられませんでした。計時システムが故障したのかと思いましたが、おそらく風向きが良かったのか、あるいは見えない力が僕を後押ししてくれたのかもしれません。家族が後押ししてくれたおかげで1秒速くなり、ワールドチャンピオンになれたんだと思いました。追いかける立場でインディアナポリスに入り、そのあとも苦しかったですが、最後は1ポイント差でワールドチャンピオンになれました」

素晴らしい形でシーズンを終えた室屋だが、思い通りのシーズンを送れたわけではなかった。「今シーズンは多くの浮き沈みを経験したタフな1年でした。開幕戦のアブダビでは機体の不調に見舞われましたが、次の第2戦では優勝できました」と室屋は振り返る。

第2戦サンディエゴと第3戦千葉を連勝した室屋は、第4戦ブダペストでも3位に入ったが、その後は不調に見舞われてしまう。第5戦カザンではラウンド・オブ・14で敗退し13位に終わった。第6戦ポルトも機体のテクニカルな問題で丸1日を無駄にし、決勝も6位に終わった。

しかし、室屋はそこから目覚ましい巻き返しを見せ、第7戦ラウジッツで優勝してタイトル争いに復帰。この優勝で、最終戦を残して総合首位のソンカに4ポイント差まで迫った。こうして、モータースポーツの聖地で全てが決まるという最高の舞台が整った。

チャンピオンを獲得しプレスの注目を一身に浴びる

インディアナポリスの決勝レース日は難しい天候となったが、室屋はそれを見事に乗り切った。「インディアナポリスの決勝レース日は非常に難しかったですね。風の影響でかなりの接戦となりました。誰がワールドチャンピオンになってもおかしくない状況でしたが、最後はトップに立てました」と室屋は説明する。

室屋は、今回のワールドチャンピオン獲得が母国日本にとってどのような意味を持つのかについて続けて説明する。「日本には沢山のモータースポーツファンがいます。さらに日本には世界的な自動車メーカーがいくつもあるので、自動車レースの人気は特に高いです。スカイスポーツの人気はそこまで高くありません。ですが、日本でもRed Bull Air Raceをフォローしてくれるファンが増え始めていますし、急成長しています。インディアナポリスでは今年5月にインディ500で佐藤琢磨選手が優勝していますが、僕のワールドチャンピオン獲得も大きく伝えられるのではないでしょうか。今年のインディは "日本人イヤー" ですね」

 

激励に駆けつけた佐藤琢磨(写真左)と語り合う
室屋は自分に注目が集まっていることを理解しているが、Red Bull Air Raceがあくまでもチームスポーツであることを強調する。室屋は最後に次のコメントを残している。「僕たちはチームワークを重ねています。スポットライトを浴び、プレスに対応するのは自分だけですが、その裏には決して脚光を浴びることのない何百人という人たちの支えがあります。彼らは僕と同じように懸命に働いてくれています。僕はチームの代表ですので話をしていますが、僕がこうしている間も熱意を持って仕事をしている人たちがいます。このような努力がチームを勝利に導いています。ですので、支えてくれている全ての人に感謝したいですし、本当にありがたいことだと思います」

チーム一丸となって勝ち取ったワールドチャンピオン