BUDAPEST RACE REPORT:室屋、連勝途絶えるも価値ある3位表彰台

ハンガリーの首都ブダペストで開かれた、レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ第4戦。このレースは室屋義秀にとって、特別な意味を持っていたと言っていいだろう。言うまでもなく、アメリカ・サンディエゴでの第2戦、千葉・幕張海浜公園での第3戦に続き、3連勝という大偉業達成がかかっていたからだ。

しかし、結果は3位。室屋はファイナル4にこそ進出したが、そこでのタイムが伸びず、かろうじて表彰台の一角を占めるにとどまった。過去2戦に連勝していたことを考えれば、3位という結果は、もしかすると失望に値しても不思議のないものだったかもしれない。

ところが、レース後の室屋は意外なほどにすっきりとした表情を浮かべていた。満面の笑みで喜びを表すわけではないが、だからと言って、落胆の色もうかがえない。「結果に関しては、僕もチームも100%ハッピーです」。そう語る顔に漂っていたのは、やるべきことはやったという満足感であり、納得感だった。

「(ドイツ・ラウジッツの第7戦まで続く)ヨーロッパラウンドのスタートとしては、非常によかった。いいレース展開だったと思います。むしろ千葉のときよりも、今回のほうがよかったかもしれないくらいです。千葉はいろいろとラッキーなところがありましたから、コンスタントに安定して飛ぶという意味では、ほぼ完璧だったサンディエゴに次ぐくらいのフライトができたと思います」

 

順位の上での後退など意に介さず、室屋が優勝したレース以上の満足感を示すのには理由がある。室屋が続ける。

「予選からずっとほぼ同じペースで飛んでいたのに、ラウンド・オブ・8で急にシンキング・イン・ザ・ゲート(機体が沈みながらゲートを通過する)のペナルティを取られてしまった。僕としては『今までと同じなのに、なんで?』という感じでしたが、バーティカルターンの後でリカバリーして水平に戻った機体が少し沈む動きを、ジャッジは危険だと判断したのでしょう。なので、同じことをファイナル4でやるのは、またペナルティを取られる可能性があるのでリスキーだと。ベン(フライト分析担当のベンジャミン・フリーラブ)と話し合って、ラインを変えて飛ぶことに決めました」

もちろん、従来通りのラインを選択すればタイムが縮まることは分かっていた。室屋自身、「恐らく優勝したカービー(・チャンブリス)を上回れただろう」という思いもある。だが、そのためにペナルティを受けたのでは意味がない。「今年の目標はコンスタントに飛ぶこと。必ずしもすべてのレースで勝つことにこだわるわけではない」と考えている室屋にしてみれば、当然のリスク管理だった。

急遽ラインを変えてファイナル4に臨んだ結果、タイムはラウンド・オブ・14と比べると、0.6秒以上も遅くなった。だが、仮にラインを変えずに勝負に出て、0.6秒を稼ぐ代償として2秒のペナルティを受けてしまえば、室屋は4位に終わっていた可能性もある。だからこそ、室屋は3位に終わったフライトをも、「予想通りのタイムというか、全然悪くないフライトだった」と納得するのである。

と同時に、割り切った選択を決断したうえで、それを落ち着いて実行できた舞台裏には、「秘密兵器」の存在があったことを室屋は明かす。

「実は千葉戦の前に、車作りのスペシャリストに手伝ってもらって、操縦桿のグリップを特別に作り替えたんです」

エアレースのパイロットたちは通常、左手でスロットルを、右手で操縦桿を握って操作する。だが、室屋はより速く、より繊細に機体をコントロールするため、スロットルは全開のまま固定し、両手で操縦桿を握っているのである。このとき、両手の動きをいかに無駄なく、正確に操縦桿へ伝えるか。秘密兵器の正体は、そんなことが極められたグリップ、とでも言えばいいだろうか。

 

「居合いの刀にしても、ゴルフのクラブにしても、5本の指全部で握っているように見えて、実は薬指と小指の2本で握っている。なので、操縦桿のグリップもただフィットすればいいというものではなく、薬指と小指だけで握るようにして、人差し指と中指は力が入りにくくなるようにしてあげて、さらには手の角度が体の軸と真っすぐになるようにとか、かなりいろいろなことをやって作ってもらいました」

自分にとって最善のグリップにたどり着くため、室屋は「筋肉痛になるまで刀を振り続けた」。そうして作り出されたグリップは「握った瞬間に腕の筋肉の位置がピタッと決まるというか、つかむと自分の"型"に入れる」のだという。

もちろん、それだけで大きく操縦技術が高まるわけではない。それでも「キャノピーを閉めると、コックピットのなかではひとりだけ。そこに何かちょっとでも頼りになるものがあるというのは、心持ちとしては大きく違う」と、室屋は言う。

この第4戦、室屋は59秒台を記録した予選以降、フライトごとに(ラウンド・オブ・8は別にして)徐々にタイムを落としていった。結果として3連勝を逃したばかりでなく、フライトの出来そのものにも何か問題を抱えていたのではないか。そんなふうにも見えた。

だが、その裏には、ただただ3連勝という派手な看板ばかりに気を取られていた周囲の盛り上がりを尻目に、世界チャンピオンへのルートを冷静に探っている室屋がいた。

ガムシャラにプッシュして、一か八かで優勝を狙いにいくのではなく、落ち着いてゲームを組み立て、できるだけ多くのポイントをコンスタントに獲得していく。それこそが、室屋の頭のなかにある戦略だった。

 

実際、室屋はこのレースで3位になったことにより、9ポイントを獲得。第3戦終了時点ではチャンピオンシップポイント(30ポイント)で並んでいたマルティン・ソンカが4位に終わり、7ポイントしか加算できなかったことで、室屋はポイントランキングの単独トップに躍り出た。

たかが2点、されど2点。この小さな積み重ねが、室屋を悲願の世界チャンピオンへと近づけるのである。

「年間のチャンピオンシップを考えれば、いいレースでした。準備していたプラン通りのフライトが全ラウンドでできたと思います」

それが強がりでも何でもなく、彼の本心である証拠に、室屋のすっきりとした表情は最後までまったく変わることがなかった。

 

(Report by 浅田真樹)

 

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