第4戦ブダペスト予選レポート:堂々たるフライトで3連勝を狙う室屋

スーパーラップ––。

そんな表現を用いることに、きっと当の室屋義秀はもちろん、チーム・ファルケンでフライト分析を担当するベンジャミン・フリーラブも抵抗を示すことはないだろう。それほどに、この日の予選で見せた室屋のフライトはすばらしかった。

「ベンが昨夜解析したプラン通りに飛びました。フライトは満点に近い出来だったと思います」

室屋が口にした堂々たる言葉に、自身のフライトに対する満足度の高さが表れていた。

 

7月1日、レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ第4戦の予選が行われ、室屋は59秒590のタイムで2位となった。トップのピート・マクロードには0.442秒差に迫る一方で、3位のペトル・コプシュタインには1秒346の大差をつけた。今回の予選で1分を切るタイムを記録したのは、マクロードと室屋のふたりだけ。同期パイロットによるマッチレースの様相を呈した予選レースは、ふたりの圧倒的な強さばかりが際立つ結果となった。

まず先に59秒台を叩き出したのは、マクロードである。その時点での2位に2秒近い差をつける驚愕のタイムは、もはやこれに追いつけるものはいないかに思われた。ところが、前回の千葉でも予選トップになっていたカナダ人パイロットの独走は許すまじと、怒涛の追い込みをかけたのが、現在チャンピオンシップポイントランキング(年間総合順位)でトップに立つ室屋だった。

予選1本目で1分00秒912のタイムを出し、2位につけた室屋は、「少しだけペースを上げて、あとコンマ5秒くらい縮められればいいかな」との思惑で臨んだ2本目で、コンマ5秒どころか、1秒近くタイムを短縮する59秒590を記録。順位こそ1本目の2位から変わらなかったものの、さすがはチャンピオンシップポイントリーダーと言うべきか、負けてなお強しを印象づけた。

思えば、千葉・幕張海浜公園で行われた第3戦が終わってからはしばらく、地元のヒーローは祝賀ムードに包まれていた。室屋が振り返る。

「第3戦が終わり、第4戦へ向けてブダペスト入りするまでが3週間。そのうち1週間くらいはオフにしてもいいかなという感じはありましたが、正直、さらに(オフの期間が)1週間は伸びたかなという感じでしたね(苦笑)。その間は福島に戻れず、フライトトレーニングができないということもありました」

 

今季第2、3戦を連勝している室屋にとっては、否が応でも3連勝が期待される今回の第4戦。決して小さくはないプレッシャーがかかっていても不思議はないが、「(前回の)地元開催のレースほどはチーム全体が忙しくないので、余裕がある。そういう意味ではレースはしやすい」と、どこ吹く風。その言葉通り、室屋は予選から上々のスタートを切ったと言っていいだろう。

スーパーラップに見えた予選2本目のフライトにしても、実のところ、室屋は「ちょっとペースを落としたほうがいいというくらい」で臨んでいたという。というのも、「あまり速いタイムを出して予選トップになってしまうと、(ラウンド・オブ・14で)フアン(・ベラルデ)と当たってしまうと思っていた」からだ。

現在、チャンピオンシップポイントランキングでトップの室屋は、予選のフライト順は最後となる(今回の予選では、本来、最初に飛ぶはずだったフランソワ・ルボットが最後に回った)。そのため、ベラルデがオーバーGを犯し、DNFになった(つまり、ベラルデが予選最下位になるだろう)ところまでは自分の目で確認することができていた。だからこそ、室屋にしてみれば「トップ(のタイム)までは行かなくていいや」というプランだったのだ。

ところが、ベラルデと同様に予選1本目のフライトでオーバーGを犯し、ブービーの13位にいたのが、よりによってマティアス・ドルダラーだった。「まさか、そこにマティアスがいるとは思わなかった」とは室屋の弁だが、見えない力でお互いが引き寄せられているのではないかと思うほど、頻繁に直接対決で顔を合わせる同期のふたりは、またしてもラウンド・オブ・14で対戦することが決まったのである。

 

だが、昨季はドルダラーのほうがチャンピオンシップポイントランキングで上位にいるのが常だったが、現在の立場は逆。同じ直接対決でも、今季は言わば、室屋がドルダラーを迎え撃つ立場にある。室屋は「こちらのほうがタイムは速いので、それほど意識する必要はない」と言い、むしろ好機到来とばかりに、こう続ける。

「1シーズンのうち、どこかのタイミングで直接当たらないと(年間総合優勝争いが)最後までもつれてしまう。だから、ここで当たることになったのは、むしろ好都合かもしれません。マティアスを叩いて、優勝争いの流れを決めてしまってもいいと思っています」

いきなりの難敵との勝負にも、室屋は嘆くどころか、溢れる自信を隠そうとはしない。

「僕が予選2本目で出した59秒台のタイムを見れば、先に飛ぶマティアスは全開で行かなければならないので、またオーバーGをする可能性が高くなるだろうし、だからといってそれを恐れれば、そんなにタイムは上がらない。マティアスにとっては、すごく難しいレースになると思います」

また、室屋が叩き出したスーパーラップにプレッシャーを感じているのは、ドルダラーだけではないだろう。それまでただひとり59秒台を記録し、余裕のクルージング態勢に入っていたマクロードにとっても、思わぬ展開に頬を叩かれた気分だったはずだ。

「予選のタイムにしてもそうですが、すべてがゲームプランのひとつ。予選1本目から2本目にかけてタイムを縮めても、順位のうえでは変わらなかったけれど、2本目にきちっとタイムを詰めたことで、トップのピートも安心できなくなったはずです。彼はペナルティぎりぎりのリスキーなフライトをしていましたが、そのへん(の際どいターン)を直せば、僕に抜かれてしまうというのは分かっているでしょうから、果たしてどう出るかが楽しみですね」

 

そして室屋は、ニヤリと笑って語る。

「明日は風向きが変わるという予報もあり、もちろんレースがどうなるかは分かりませんが、おもしろいゲーム展開になっているとは思います」

室屋自身が「奇跡的」と表現するほどに、劇的だった地元レースでの優勝後は、あらゆる意味で次戦への準備が難しい状況にあったに違いない。にもかかわらず、室屋は予選から、早くも現在2連勝中のパイロットにふさわしい完璧なフライトを見せつけた。そこに慢心から生じる準備不足はうかがえない。

地元レースで勝つことを求められるプレッシャーに比べれば、3連勝へのプレッシャーなど何でもない。落ち着いた表情と力みのない語り口から感じられるのは、そんな余裕ばかりである。

 

(Report by 浅田真樹)

 

■Information
Red Bull Air Race World Championship 2017シーズン第4戦ブダペストの決勝レースは7月2日に開催。Red Bull TVによるライブストリーミングはこちら>>