ハンガーレポート 05:#11 RACING

快進撃で注目を浴びるマスタークラス最年少パイロットのハンガーを直撃

およそ2カ月前まで、ロシアで開かれていたサッカーのワールドカップ。昨年に続き、2度目のレッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップが行われたカザンにも、その名残が街中のあちらこちらに見られた。

エアレース観戦のメイン会場となったのも、ワールドカップ当時はパブリックビューイングなどのイベントが行われ、多くのファンが集まった場所。競技こそ変わっても、再び、同じ場所に多くの観客が集まり、世界トップレベルの争いを堪能することになった。

そんなカザンでの第5戦。多くの注目を集めたのが、ミカエル・ブラジョーだ。

ブラジョーは第4戦のレース、ハンガリー・ブダペストで2位となり、自身初の表彰台に立った。レース直後のインタビューで感極まった姿は印象深い。

ブラジョーはマスタークラスでのシーズン2年目でありながら、早くも初の表彰台に立ち、チャンピオンシップポイントランキングでは4位につける。その驚くべき快進撃を支えるチームの秘密を知るため、今回は#11レーシングのハンガーを訪れた。

 

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「隠すものはないから、何でも見ていいよ」

快く迎えてくれたのは、パイロットのブラジョー。メディアやファンと接するときは、いつも笑顔を絶やさない。

 

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第4戦ブダペストのレースで初の表彰台に立ったこともあり、注目度も格段にアップ。レース前には取材以来も数多い。表彰台に立つのは前回が初めてだったが、パイロット、機体ともに上り調子で、最近のレースでも確実に速くなっているのが感じられる。他のパイロットたちにとっては、かなり手強い相手だろう。

 

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ブラジョーが取材をこなす時間を利用して、ハンガーのなかを見せてもらう。

 

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機体はシルバー、ハンガーはモノトーンを基調にまとめられていて、全体に落ち着いた印象だ。ハンガー内には物が少なく、スッキリとしている。他のチームにはない、特別に用意しているものが何かありませんか、と尋ねても、「特にないかな」とつれない回答。速く飛ぶ秘訣は「健康に気を配り、しっかり休養を取り、メンタルの準備をすること」だそうだ。

 

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モノトーンのなかに、ちょっとしたアクセントになっているのが、赤白青のトリコロール。言うまでもなく、ブラジョーの母国フランス国旗をあしらったものだ。

さて、ブラジョーの取材対応が落ち着いたところで、「バランスのとれたいいチーム。みんなプロとしての仕事をしてくれる」という#11レーシングのチームスタッフを紹介してもらう。

 

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まずは、テクニシャンのアンソニー・ベザール。

「アンソニーは優れたエンジニア。機体のセッティングや修理を行ってくれる。機体が速く飛べるようにしてくれる頼もしい存在だよ」

 

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続いては、タクティシャンのマックス・ラム。

「マックスはレーストラックを分析し、いいラインを見つけてくれる。年間8戦あるレースそれぞれのコースに適応したフライトができ、各フライトの後には改善点を見つけ出し、速く飛べるようにしてくれるんだ」

 

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最後にチームの紅一点、チームコーディネーターの"ヴィッキー"こと、ヴィクトリア・グリフィスだ。
「ヴィッキーがチーム全体をオーガナイズしてくれる。スケジュールを把握し、すべてのことがオンタイムに、しかもスムーズに進むようにしてくれるんだ」

 

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ブラジョーは現在14名いるマスタークラスパイロットのなかでは最年少の31歳。マスタークラスでは2年目と、経験という点ではまだまだ他のパイロットたちには及ばない。それでもこれだけの成績が残せているのは、彼の技術や能力はもちろん、支えるスタッフの力も見逃せない。

というのも、このチームのベースは一昨年までマスタークラスで活躍し、2014年シーズンには年間総合優勝を果たしたナイジェル・ラムのチームにあり、機体も含めて、それをそのまま引き継ぐ形で参戦しているからだ。名前を聞いて、ピンときた人もいるだろうが、タクティシャンのマックス・ラムは、ナイジェルの実の息子でもある。ブラジョーは彼らについて「多くの経験を持ったすばらしいスタッフ」と語り、信頼を寄せる。

「レッドブル・エアレースに対して強いスピリットを持っている。みんなで同じ目標を見ているし、そのためには耐えるべきところは耐えることもできる。前回表彰台に立ち、チャンピオンシップのランキングでも上位にいることは、僕だけでなく、チームにとっても自信になっている。でも、それはもう終わったこと。次、その次、と考えていかなければならない。エアレースはタフな競技なので、もちろん勝つこともあれば、負けることもあるけれど、結果に関係なく、頭をクールにして、速く飛ぶことだけにフォーカスしなければいけないんだ」

ヴィッキーもまた、前回表彰台に立ったことで「チームとして、より自信を持てた」と言い、このチームが持つアドバンテージについて語ってくれた。

「スタッフはとても経験があるので、レースの準備段階から、何か問題が起きたとしてもすばやく対応できる。そのアドバンテージはやはり大きい。ナイジェルはエアレースだけでなく、パイロットとして非常に経験豊富なので、彼に教えられたことは多いし、このチームの基盤はナイジェルが作ったと言えるわね。今でもナイジェルから、いろいろとアドバイスをもらっています」

 

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最後にスタッフ全員で集合写真を撮らせてもらう。

機体の調整中だったベザールが、作業の手を止めてやってくるのを待つ間も、他の3人で談笑。その様子からはチームワークのよさがうかがえる。

 

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ヴィッキーとベザールが両手の人差し指を立てているのは、パイロットナンバーの「11」。いわば、Vサインならぬ、イレブンサインだ。

 

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残念ながら、カザンの第5戦でブラジョーはラウンド・オブ・14敗退に終わり、2戦連続での表彰台はならなかった。だが、チャンピオンシップポイントランキングでは、依然4位につけており、年間総合での表彰台にも手が届く位置にいる。

マスタークラス2年目にして、これだけの成績が残せている秘密はどこにあるのだろうか。そんなことを訪ねると、ブラジョーは「エアレースで勝つために必要な要素が3つある」と言い、こう続けた。

「3つの要素というのは、速い機体、強いチーム、そして、もうひとつがパイロットだ。僕はパイロットとして、スキルを身につけ、メンタル的にも常にリラックスしてレースに臨むことが必要になる。この3つが揃えば、きっと勝てるはずだよ」

レッドブル・エアレースのレジェンドのひとりであるナイジェル・ラムの跡を継ぐ形で、マスタークラスに加わったブラジョー。当然、それなりのプレッシャーもあるだろう。だからこそ、「速く飛ぶことだけにフォーカスしたい」と繰り返すのかもしれない。そして、その成果は確実に表れてきている。

速い機体、強いチーム、優れたパイロット。ブラジョーはデビュー2年目にして、早くも勝利の3条件が揃いつつあるのではないだろうか。少なくとも、ふたつ目はすでに手にしているようだ。

 

(Report by 浅田真樹)

 

【ハンガーレポート】

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