ハンガーレポート #2:Team Goulian

笑顔の絶えないハンガーで今季絶好調の秘訣を探る 

今、マイケル・グーリアンが絶好調だ。

今年9月に50歳の誕生日を迎えるアメリカ人パイロットは、レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップの今季開幕戦となるUAE・アブダビでの第1戦を制すると、続くフランス・カンヌでの第2戦でも3位に入り、2戦連続で表彰台に立った。第1戦で挙げた勝利が9年ぶりの2勝目だったように、通算出場レース数が70に迫る経験豊富なパイロットも、初勝利以降は"後輩たち"に押され気味で、表彰台には立ててもなかなか優勝には手が届かなかった。

ところが2018年の今年、開幕戦でいきなり頂点に立つと、マスタークラスの全14パイロットのなかでただひとり2戦連続で表彰台を獲得。第2戦を終えて、チャンピオンシップポイントでも24点を稼ぎ、ランキングのトップに立っている。

そんなグーリアンの"覚醒の秘密"を探るべく、今、レッドブル・エアレースで最も勢いに乗るチーム・グーリアンのハンガーを訪ねた。

 

 

レースエアポートには、前戦終了時点でのチャンピオンシップポイントランキング順にハンガーが並ぶ。トップのチーム・グーリアンは最も滑走路に近い位置に陣取り、2位のチーム・ファルケンとは隣り合わせだ。

 

 

ハンガーを案内してくれたのは、今季からチーム・グーリアンに加わったチーム・コーディネーターのエミリー・マンキンズ。親しみを込めてグーリアンを「マイキー」と呼ぶマンキンズは、「エアレースのチームに入るのは初めてだけど、それ以前からエアショーチームのサポートをしていたので、マイキーとのつき合いは5年目になる」という。グーリアンと一緒にポーズを取る様子を見れば、なるほど、すでに信頼関係が築かれていることがうかがえる。

 

 

ハンガー内にはサングラス姿のグーリアンが大きく描かれており、すぐにここが"今最もノッてるパイロット"のハンガーだと一目で分かる。

 

 

ハンガー内は、最後の機体調整が行われている最中。テニクシャンのウォーレン・シリアーズがコックピットに頭を突っ込み、何やら賢明に作業をしていた。作業を待つ間、マンキンズにチーム・グーリアンのスタッフを紹介してもらう。

まずは、チーム・マネージャーのパブロ・ブランコ。チームのリーダー的存在であるブランコは、チーム・グーリアンでのスタッフ歴が最も長い。「パブロはタクティシャンとしてレースを分析し、最適なラインを導き出してマイキーにアドバイスする。でも、パブロの役割はマイキーにレースごとの戦術を与えるだけではなく、彼自身もエアロバティックスのパイロットなので、ある意味コーチであるとも言えるわね」(マンキンズ)。

続いては、テクニシャンのシリアーズ。「マイキーがスムーズに飛べるように機体のメンテナンスを行うのが、ウォーレンの役割。彼は常に完璧(パーフェクト)なことはもちろんだけど、同時に美しい(ビューティフル)フライトを目指しているわ」(マンキンズ)。

 

 

シリアーズの作業が終わるのを待って、チーム全員で写真撮影。「写真撮るから集まって!」。マンキンズがバックヤードに声をかけるとあっという間に全員が集まる。さすがは、腕利きのチーム・コーディネーター。本人は「チーム全体がうまく回るようにするのが、私の仕事だから」と控えめに語るが、ブランコ曰く、「初めてのシーズンにもかかわらず、エミリーはチームがレースにフォーカスできるよう、いろいろなことをうまく進めてくれる」という頼もしい存在だ。

作業を終えたばかりのシリアーズが最後にやってきて、頭の後ろで束ねた長髪をこちらに向けると、「僕の髪型、乱れてないかな?」と、おどけてニコリ。チームの雰囲気のよさがうかがえる。グーリアンとマンキンズを挟み、左にブランコ、右にシリアーズが立つ。

実は、ここには映ってないのだが、チーム・グーリアンには不可欠なスタッフがもうひとりいる。それが、タクティシャンのスティーブン・ホールだ。マンキンズによれば、「スティーブンはMIT(マサチューセッツ工科大学)のプロフェッサーで、ニューイングランドの自宅に残ってハンガーと常に連絡を取り合っている。そこでデータ解析を行い、パブロにベストラインのアドバイスを送っている」とのこと。使用するコンピューターソフトは「マイキー用にカスタマイズされている。操縦のクセは人それぞれ。マイキーのクセも含めて最適な計算をしてくれる」(ブランコ)のだという。やはりレッドブル・エアレースにおいて、レース分析の重要度が大きく増しているのだと実感する話だ。

 

 

ハンガー内に目を移すと、当たり前のことだが、まずは磨き上げられた白い機体が目に入る。かつては、緑や黒のイメージがあったグーリアンの機体だが、新たなスポンサーが加わったことで、昨季途中から白が基調となっている。機体上部に引かれた赤いラインがアクセントになっていて、カッコいい。

 

 

最近、各チームで導入が進むウイングチップも、こうして近くで見ると、それぞれが微妙に異なる形状であることがよく分かる。

 

 

グーリアンの機体で非常に印象的なのは、チームスタッフ全員の名前が尾翼に記されていること。グーリアンは「チームはファミリーであるべき」と語っているが、そのフィロソフィーがここに表現されているのだろう。マンキンズもこれをすごく気に入っている。

 

 

フライト映像では気づくのが難しいだろうが、同じ尾翼側面の上部には、アメリカ国旗をあしらったデザインが小さく施されている。

 

 

ツールボックスの前には、テーブルとイスがセッティングされ、ここでPCを使った作業が行われたり、簡単なミーティングが行われたりする。ある意味、ここがチーム・グーリアンの前線基地だ。

 

 

ツールボックスの側面には、小さな星条旗も揺れていた。

 

 

ハンガー内をあちこち見ている間も、開幕戦を制したグーリアンのもとには各国のメディアが取材にやってくる。取材というと、どうしても堅苦しい(ときに儀礼的で形式的な)やり取りを想像されてしまうかもしれないが、グーリアンの場合は常に笑いが絶えない。マンキンズも「マイキーの性格を一言で言うなら、"likable(誰にも好かれる)"。彼はジョークが大好きで、常に好意的な態度で人と接する。それは(取材の)カメラの前でも、私たちの前でも変わらない」と言い、ハンガー内を指さすと、「だから私にとって、ここはストレスフリーゾーン。そういう雰囲気は勝負のためには重要なことだと思う」と、うれしそうに教えてくれた。

それにしても、今季のグーリアンは強い。何かレース前のルーティーンやゲン担ぎでもあるのではないかと、チーム・マネージャーのブランコに尋ねてみるが、「マイキーは特別なことはしていない。レース前には音楽も聴かないし、静寂のなかで心を落ち着けるだけ」とのこと。だが、こんな表現でチーム・グーリアンの現状を説明してくれた。

「エアレースとは、小さなピースを組み合わせるパズルのようなもの。開幕戦では、チーム全体がレースにフォーカスして集中力を高め、マイキーはメンタル的にもフィジカル的にもいいコンディションに持っていくことができた。もちろん機体の調整も含めて、すべての設定がうまくいった。つまり、すべてのパズルのピースが組み合わさったのがアブダビだったんだ」

 

 

グーリアンのために、それぞれの役割を確実にこなすチームスタッフ。その一方で、パイロットであるグーリアンもまた、「僕にとって重要なのは、余計なことを考えず、パブロに指示されたラインを信じて飛ぶことだけだ」と、チームスタッフに絶大な信頼を寄せる。

「99」のエンブレムが燦然と輝くハンガー内には、勝負の場とは不釣り合いなほど、張り詰めた緊張感とは無縁の何とも言えない心地よい雰囲気が漂う。きっと、それこそが今のグーリアンの強さを支える秘密なのだろう。

 

(Report by 浅田真樹)

 

【ハンガーレポート】

#1:Matthias Dolderer Racing