ハンガーレポート #8:Team Velarde

マスタークラス参戦4年目。着実に進化を遂げる気さくなスペイン人パイロットのハンガーへようこそ。

2011年から3年間の休止期間を経て、2014年に新たなスタートを切ったレッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ。2014年のリスタートにあたり、競技レベルの向上を目的として新設されたのが、現在も10名のパイロットが名を連ねるチャレンジャークラスである。

レッドブル・エアレースのマスタークラスには、世界中からトップパイロットが集うとはいえ、時速370㎞ものスピードで地上20mほどの低空を、しかも、パイロンをすりぬけながら飛ぶという特殊性に適応するのは簡単なことではない。そのため、次代を担う候補生たちにチャレンジャークラスで実際のレースを経験させ、マスタークラスで通用するパイロットを育てているのだ。

そして2015年、チャレンジャークラス出身のパイロットとして、初めてマスタークラスに参戦してきたひとりが、フアン・ベラルデだった。

マスタークラス参戦4年目を終えたスペイン人パイロットは、デビュー当初こそ苦しい戦いが続いていたが、この1、2年は急激に力をつけてきた。2017年には、開幕戦でいきなり自身初の表彰台(2位)に立つと、第7、8戦では二戦連続でファイナル4へ進出。第7戦は4位に終わったが、第8戦では再び表彰台(3位)に立っている。

パイロット自身はもちろん、このところ、チームとしても着実に成長を続けるチーム・ベラルデのハンガーを、2018年シーズンの最終戦を前に訪ねた。

 

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このハンガーレポートも今回で8回目、つまり8チーム目になる。いつも感じることだが、レッドブル・エアレース公式サイトの日本語版で紹介すると伝えると、みな喜んで取材に協力してくれる。誰もが日本での高いレッドブル・エアレース人気を知るからこそだろう。ベラルデも明るい笑顔で迎え入れてくれた。

 

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これが2018年最終戦ということもあり、全チームを対象にシーズンの総括的なインタビューを行うメディアも目立つ。要望があれば、フライトスーツでの対応も可能だ。

マスタークラス屈指の長身パイロットであるベラルデは、フライトスーツもばっちりお似合いだが、実は他にも数多くのスポーツをこなす。チームコーディネーターのパブロ・ブエノによれば、「フアンはフィジカルトレーニングの一環として、ボクシングにランニング、モトクロスバイクと、とにかくいろんなスポーツをやっている。最近はリラックスも兼ねて、カイト・サーフィンにハマっているね。先日も友人とスペイン南部のタリファの海で楽しんできたところだよ」

 

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ベラルデの「どこでも好きなところを撮って構わないよ」という言葉に甘え、ハンガー内を写真撮影。ハンガー中央に置かれた機体の尾翼には、母国スペインの国旗があしらわれている。

適当に写真を撮らせてもらうので、いつもように作業を続けてくださいと、スタッフにお願いすると、どこからともなく、「じゃあ、仕事をしている"ふり"をしなくちゃならないな」の声が(笑)。

 

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レース映像を通じて機体全体を見ているだけではあまり実感できないが、こうして近くで見てみると、ウイングレットはかなりのサイズであることが分かる。

「フアンはマドリード近郊のカサルビオを拠点に、日常的にはエアロバティックス用の別の機体を使ってトレーニングをしている。他のスポーツもいろいろとこなすけど、やはりフライトフィーリングを保つことは重要だからね。この機体(レース機)に乗っているのは、1年のうちでトータル1カ月間くらい、というところかな」(ブエノ)

 

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ハンガー内をあちこち見せてもらっていて気になったのが、フライト中に着用するヘルメット。レース中のコックピット内の映像でも分かるように、正面から見ると、シンプルなものなのだが......。

 

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背面はスポンサーであるハミルトンの時計がかなり細かく描かれている。なかなか斬新なデザインでカッコいい。

 

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ハンガーの隅には、自転車とキックボード。移動用のガジェットもかなり充実している。

 

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ファンやメディアに配布するグッズが充実しているのも、チーム・ベラルデの特徴だ。フォトカードをはじめ、キーホルダーにステッカー。ここには写っていないが、小さな子供向けには、チーム・ベラルデの機体をモチーフにしたぬり絵なんかも用意されている。もちろんお願いすれば、フォトカードにはサインも入れてくれる。

 

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では、リーダーでもあるベラルデに、チームスタッフを紹介してもらおう。

「まずは、テクニシャンのテッド・レイノルズ。僕はマスタークラスにデビューしてから4年目になるけど、スタートからずっと一緒に働いてくれている。マスタークラス参戦が決まり、チームを編成しなければいけなくなったとき、共通の知り合いである他の整備士を通じて知り合ったんだ。カナダ出身で、彼自身パイロット。だから、飛行機に関して多くの経験を持っていて、カーボンファイバー、エレクトロニクスと、とにかくすべてのことに精通している」

 

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「続いては、タクティシャンのアンセルモ・ガメス。彼はエアラインのパイロットでもあり、エアロバティックスのパイロットでもある。僕とは20年間、同じエアロバティックスチームで活動している。フライトシミュレーターなどを使い、フライトを分析し、最適なラインへと僕を導いてくれるんだ。現在のレッドブル・エアレースは、フライト分析が非常に重要。フライトごとに、スピードやG、エンジンパフォーマンスなどのデータを機体からダウンロードして解析し、次のフライトに臨んでいるよ」

 

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「そして最後は、チームコーディネーターのパブロ・ブエノ。彼は、僕のフルタイムのパーソナル・アシスタントでもある。言うまでもなく、彼の仕事はこのチームをオーガナイズすること。機体の輸送、スタッフの移動から、メディアやスポンサーとの折衝。さらにはSNSでの情報発信なども、彼がしてくれている。おかげで、レース期間中もチームは円滑に進んでいく。スタッフ全員が次に何をしなければいけないか、戸惑うことがないからね」

 

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「もうひとり、今回はここに来ていないけれど、エンジニアのミゲル・フルートスがいる。彼は機体のすべてを総括的に管理していて、スーパーバイザーとしての役割を担ってくれている。エンジンセッティングから燃料の取り込みといったことまで、機体に関することは最終的に彼が決めているんだ」

そして、ベラルデは自身の成績向上には、いいチームスタッフの存在が欠かせないと続ける。

「レッドブル・エアレースは個人スポーツではない。勝つためには、いいチームを作ること。そして、いい飛行機を持つこと。チーム、飛行機、パイロット。この3つが揃って、初めて勝つことができる」

 

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今回の最終戦で、ベラルデはラウンド・オブ・8敗退に終わり、チャンピオンシップポイントラインキングは9位で終了した。2017年が8位だったことを考えれば、順位はひとつ下がってしまったことになる。また、2017年には2戦あった表彰台も、2018年は一度もなかった。

しかし、その一方で、2018年は全8戦中、5戦でラウンド・オブ・14を突破。これは2017年の4戦を上回っており、フライトの安定度は増しているとも言える。ブエノが語る。

「確かに昨年は表彰台に立てたけど、それはリミットまで攻めて、ギリギリで出せた結果。でも、それでは安定した成績を残すにはリスクがあるんだ。フアンは現在、成長途上にある。だから、来年が楽しみだよ。きっと、コンスタントにファイナル4へ進めるようになるはずだ」

成績だけを見れば、やや停滞したかにも見える2018年だったが、ベラルデは、エアレース・パイロットとして充実した日々を送っている。レッドブル・エアレースのどんなところが楽しいんですか? そんなことを尋ねると、答えは間髪入れずに返ってきた。

「トラックを飛ぶことだよ! すべての準備を整え、レースに飛び立つときの気分といったら、もうこの上ない。こんな経験ができるのは、世界中のパイロットのほんの一握りだけ。僕はとてもラッキーなんだ」

シーズンを重ねるごとに、着実な成長を見せるベラルデ。表彰台も真ん中に立ち、チーム・ベラルデのハンガーが歓喜に満ちるのも、そう遠い日ではないはずである。

 

(Report by 浅田真樹)

 

【ハンガーレポート】

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