ハンガーレポート:Matthias Dolderer Racing

王座奪還を目指すドルダラーのハンガーを愛娘が案内してくれた

レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップは毎年、UAEの首都アブダビで開幕戦が行われるのが恒例となっている。今年もまた中東の地で、およそ10カ月におよぶ長く激しい戦いの幕が開けた。

シーズン開幕戦におけるひとつの楽しみと言えるのが、各チームの新体制が見られること。機体の改良ひとつ取っても、ウイングレットの装着など、目に見えるものもあれば、塗装の修正による軽量化など、目に見えないものもある。また、機体だけでなく、チームスタッフが入れ替わっていることも珍しくない。各チームのハンガーをのぞいてみると、そんな発見が特に開幕戦ではいろいろとある。

そこで、普段あまり見ることのできないハンガーの様子を、ここで紹介してみたい。

 

各チームのハンガーは、レースごとに並ぶ順番が入れ替わる。これはその時点でのチャンピオンシップポイントランキング順に並ぶからなのだが、開幕戦では前年の最終ランキングに基づいてハンガーの場所が決められる。つまり、今年の開幕戦では室屋義秀のチーム・ファルケンが滑走路に一番近い場所に陣取っている。続いて、マルティン・ソンカ、ピート・マクロードと、昨年の年間総合上位のチームが並んでいる。

さて今回、あまり目にすることのできないハンガーの様子やそこで働くチームスタッフを紹介してもらいにうかがったのは、2016年の年間総合チャンピオン、マティアス・ドルダラー率いるマティアス・ドルダラー・レーシングだ。

 

「ようこそ、私たちのハンガーへ」と案内してくれたのは、チーム・コーディネーターのララ・シッグ。ドルダラーのインタビューを希望するメディアや、チームを訪ねてくる関係者の応対をするなど、テキパと仕事をこなしていくこの女性は、実はドルダラーの実娘。"産休"に入った前任者の穴を埋めるべく、今年からチームスタッフとして父でもある一昨年のチャンピオンパイロットに帯同している。

父であり、チームリーダーでもあるドルダラー曰く、「ララはとてもスマートにいい仕事をしてくれている。彼女も昨年パラグライダーのライセンスを取り、空を飛び始めたんだ」

 

ハンガーを訪れたのは、レースを前にしてスタッフが慌ただしく機体の整備に追われる最中。邪魔にならないよう、シッグに今年のマティアス・ドルダラー・レーシングのスタッフを紹介してもらった。

 

まずは、白いTシャツ姿で汗を流す、テクニシャンのカイ・フロメルト。「機体の整備をするのが、彼の仕事。機体を常にクリーンな状態に保ち、何か問題があれば、彼が修理してくれる」(シッグ)。そしてもうひとり、黒いTシャツ姿は、エンジニアのアンディ・チアベタ。「彼は今年から加わった新しいチームメンバー。機体のデザインや空力に精通していて、機体をより速く安全に飛べるようにしてくれる。とてもクレバーで、みんなからは"Nerd"(英語で、専門バカ、オタクの意)の愛称で呼ばれているの」

 

ふたりによって整備を終えた機体は、最後にピカピカに磨き上げられ、準備完了。今年からドルダラーの機体には、新たなスポンサーロゴも加わり、カラーリングそのものに変更はないものの、少し印象が変わっている。ちなみに機体右奥に小さく背中が見えるのは、カービー・チャンブリス。ライバルと言えども、パイロットやスタッフ同士がチームの垣根を越えて気さくに話ができるのも、レッドブル・エアレースの魅力だ。

 

こうしてアップで見る機会はなかなかなく、フライト映像を見ているだけでは気が付かないが、尾翼の横面には、ドルダラーのサインが入っている。

 

ハンガー内にはドイツ国旗もレース前には掲げられ、徐々にチーム全体の雰囲気もレースモードへと入っていく。

 

ツールボックスなどの小道具がそれぞれのチームカラーにデザインされており、本来は雑然とした印象になる作業場も、なかなかにカッコいい。

 

マティアス・ドルダラー・レーシングのハンガーでおなじみなのは、ちょっとした遊び道具が揃っていること。いつもなら、空いた時間をつぶすためなのか、精神を集中させるためなのか、ダーツボードがかけられ、ダーツに興じるドルダラーの姿を見かけることも多いが、今回は残念ながらダーツボードは持ち込まれていなかった。

だが、"ドルダラーと言えば"のガジェットは、やはりキックボード。ドルダラーの愛車はやはり今回も健在だった。トイレのときに、食事のときに、パイロットミーティングのときにと、チームステッカーが貼られたキックボードはドルダラーだけでなく、チームスタッフに欠かせない存在だ。

 

すると、そこへひとりの男性がキックボードを引っ張り出して、さっそうと登場。ランチ会場へと向かった。そんな彼こそがもうひとりのチームスタッフである、タクティシャンのミカエル・ストック。「マティアスがどこでどうターンすれば、より速く飛べるか、フライトの分析をしてくれる。エアレースが中断から開けた2014年シーズンからチームに加わっている」(シッグ)。ハンガーを訪れ、シッグと話していたときは「ミカエルは今、バックヤードで作業をしている」とのことだったが、しばらくすると、作業が終わったのか、キックボードで勢いよく飛び出していったというわけだ。

 

そこで、食事を終えてハンガーに戻ったストックにも話を聞いた。今回の開幕戦では、ドルダラーは予選でトップタイムを記録したように、パイロット、機体ともに調子がよさそう。一昨年の年間総合優勝から一転、昨年は苦しいシーズンを過ごしたが、今年は早くも巻き返しのムードが漂っている。

昨年とは何が変わったのですか。単刀直入にそう尋ねると、ストックは「まずは機体が改良され、特に空力面で性能が上がったことだね」と言い、こう教えてくれた。

「もちろん、1戦1戦にフォーカスするが、今年は(年間総合での)タイトル奪回を狙い、このシーズンオフはメンタルトレーニングにも力を入れた。きっとヨシ(室屋)もそれがうまくいっているんだよね? 昨年は(前年王者で)とてもプレッシャーが大きく、ネガティブなことばかり考えてうまくいかなかったので、メンタル面を特に重視し、今年はアグレッシブかつスムーズに飛べるようにしているんだ」

 

こんな4人の強力、かつ温かいチームスタッフによって支えられているドルダラーは、2年ぶりの年間総合優勝を狙っている。

 

ドルダラーは室屋と同期のパイロットということもあり、日本での人気も高い。ストックも「日本に行ったときに、それは感じたよ。日本での人気はヨシが圧倒的な1番だと思うけど、2番目はマティアスにしてほしいな」と笑っていた。

今回の開幕戦では結果的に機体の速さがあだとなり、ラウンド・オブ・14で痛恨のオーバーGを犯して敗退となってしまった。予選で圧倒的なトップタイムを出していたことを考えれば、ちょっと残念な結果だった。しかし、室屋も「今年のマティアスは速い」と警戒感を強めるほどに、仕上がりは上々。今年のドルダラーは強そうだ。

 

今年は一昨年のチャンピオンの巻き返しにも注目したいところである。

 

(Report by 浅田真樹)