カンヌ予選レポート:バージョンアップした機体で納得のフライト

 UAE・アブダビでの今季開幕戦からおよそ2カ月半。シーズン中のレース間隔としては異例なほどに長く空いた時間を理由に、チーム・ファルケンは大掛かりな機体改造に着手した。室屋義秀の言葉を借りれば、「1年がかりのプロジェクトで、カウリングを新設計しました。これまでいろいろな改造をしてきましたが、過去最大と言ってもいい大プロジェクトです」

開幕戦後、機体はフランス・トゥールーズ南部に手配したハンガーに移された。そして、テクニシャンのピーター・ゴーティエ、タクティシャンのベンジャミン・フリーラブが3週間の作業を行い、一旦アメリカに帰国。その後、第2戦の2週間前に再集合したゴーティエとフリーラブに室屋も加わり、最終組付けとテストフライトが行われた。

アブダビまでの機体と比較すれば、明らかにカウルの形状が変わっているのが分かるが、具体的な機能については「かなり作り込んでいてシークレットだらけなので、あまりしゃべりません(笑)」とのことだ。

©️Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool

しかしながら、大きな改造に着手する決断は簡単にできるものではない。それが大掛かりなものになればなるほど、相応の大きな効果が期待できる一方で、失敗のリスク、すなわち機体性能が落ちる可能性も少なからず膨らむ。実際チーム・ファルケンには、昨季開幕戦でエンジン冷却の新しいシステムがまったく働かず、レース直前に前年までの仕様に戻した経験もある。今回も、「開幕戦までのカウルも残しておいて、いつでも戻せるようには準備していた」と、室屋は裏事情を明かす。

だが、結果として"史上最大のプロジェクト"は、上々の手ごたえを得るに至った。室屋が語る。

「スタッフは1日16時間くらい取り掛かっていたので、イージーな作業ではありませんでしたが、大きな問題もなく順調に進んだと思います。まだレーストラックを飛んだ回数が少ないので、データを取り切れていないところはありますが、ここまでの感じは悪くありません」

ちなみに、今回の第2戦からウイングチップも新たに導入されているが、これについては上記のプロジェクトとは別進行。「次の千葉戦から投入かなと思っていたが、今回間に合ったのでつけてみたら性能は悪くなかったので、投入することにしました」

こうして迎えた、フランス・カンヌでのレッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ第2戦。バージョンアップされた愛機を従え、室屋は「結構シンプルなトラックなので、攻略法がはっきりしない」とこぼしつつも、予選前日の公式練習から順調に好タイムを並べた。

©️Joerg Mitter / Red Bull Content Pool

予選の結果は、57秒456で6位。1本目のフライトはその時点でトップとなるタイム(57秒103)でフィニッシュしたものの、最後のバーティカルターンでクライミング・インザゲートのペナルティ(プラス2秒)を受けたため、2本目は「2回のバーティカルターンで、それぞれコンマ2秒くらい落とす感じで飛んだ」と室屋。その結果、「ほぼターゲットタイムで飛ぶことができた」と納得の表情を見せる。大きな改造を施したばかりの機体が「まだ100%のコンディションではないことを考えれば、悪くないタイムだった」というわけだ。

とはいえ、6位という順位については「このタイムならもう少し上かなと思った」と、室屋は少々意外そうな様子をうかがわせる。

レーストラックでのフライトを重ね、各パイロットのライン取りが固まってきたのに加え、会場であるカンヌの海は夕方になって気温がグッと下がったことも全体のタイムの水準を引き上げる要因となった。前日の公式練習までは58秒フラットならかなりの好タイムだったが、予選は8人が57秒台を記録するハイレベルな争いに。予選1位のマイケル・グーリアンから6位の室屋まで、わずか0.383秒差に6人がひしめき合っている。

©️Joerg Mitter / Red Bull Content Pool

もちろん、室屋には大規模改造直後のレースで、「データがまだ揃っていない。今回のレース中に(新しい機体性能を)つかみ切るまではいかないと思う」という事情はある。改造後の機体性能が完全に発揮されるのは次戦以降。開幕戦の勝者にして、今回の予選でも首位に立ったグーリアンとの0.383秒差は決して小さくはないようにも見える。

それでも室屋は、「まだ余裕を残して飛んでいるので、勝負に出れば十分にまくれると思います。昨年勝ったサンディエゴ(での第2戦)やインディアナポリス(での最終戦)のようにぶっちぎりで勝つことはできないでしょうが、勝負ができるセットアップには持っていけるはずです」と、翌日の逆転を誓う。

©️Joerg Mitter / Red Bull Content Pool

レースデイに向け、「結構タイトな戦いになるプレッシャーもかかるだろうし、ほんのちょっとしたライン取りで勝ち負けが決まるだろう」と語る室屋に、ズバリ尋ねる。攻略法がはっきりしないというレーストラックにおいて、勝負のポイントはどこなのか、と。

「これからベン(フリーラブ)が解析してくれますが、今日の予選を飛んでみて、ポイントは意外なところにあるだろうという感じがしています」

意外なところとは、つまり見た目に分かりやすいバーティカルターンやハイGターンが勝負のポイントではないということか。さらに質問を重ねると、室屋は不敵に微笑んで口をつぐんだ。

「今日のところは、これ以上言えません。でも、(予選トップの)グーリアンはそれに気づいているのかもしれませんよ」

何人ものパイロットがわずかなタイム差で上位を争う、混戦模様の今季第2戦。室屋はとっておきの"秘策"を手に、2戦連続での表彰台を狙う。

 

(Report by 浅田真樹)