カザン予選レポート:最も重要な一戦に挑む王者

これが正真正銘のラストチャンスである。

2018年のレッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップは、全8戦のうち半分の4戦を終え、第2、3戦を連勝したマット・ホールが45ポイントで首位。これを開幕戦優勝のマイケル・グーリアンがわずか2ポイント差の2位で追い、激しいトップ争いを繰り広げている。

一方、開幕戦こそグーリアンに次ぐ2位で表彰台に立ったものの、その後はポイントが伸び悩み、苦境に立たされているのが、昨年の世界チャンピオン、室屋義秀だ。

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©️Andreas Schaad/Red Bull Content Pool

順位のうえでは5位とまずまずの位置につける室屋も、首位のホールとは26ポイントもの差をつけられている。ディフェンディング・チャンピオンは「連覇という目標は変わっていない」とは言うものの、「自分が勝つことはもちろんだが、上のふたりがポイントを落としてくれなければ届かない」と厳しい現状は認識している。

「だから、(重要なのは)今回のレースでしょうね。残り3戦になると、ある程度先が見えてきてしまいますから」

ここで勝てなければ夢は絶たれる――。室屋はそんな覚悟を携え、年間総合2連覇を達成するため、必勝を期して第5戦が行われるロシア・カザンに乗り込んできた。

およそ2カ月前、ハンガリー・ブダペストで行われた第4戦では、オーバーGによるDNFでラウンド・オブ・14敗退。千葉での第3戦に続き、2戦連続で悲劇的な結果に終わっていた。

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©️Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool

一昨年、今回と同じようにオーバーGに悩まされた経験を持つ室屋は、徹底的にGの感覚を体に覚え込ませることで、「12Gの制限規定ギリギリではなく、マージンを取って」垂直方向のバーティカルターンや、水平方向のハイGターンをこなせるようになっていた。ところが、「機体の改良が進むなかで、機体のスピードと自分の感覚との間にごくわずかなズレが生じてしまっていた」。室屋は第5戦を迎えるにあたり、様々な機体データを確認しながら、自らのGに対する感覚を修正しようと取り組んできた。

とはいえ、室屋にはオーバーGだけにとらわれすぎてはいけないという意識も強い。

「2戦続けてこういう結果に終わったことで、どうしてもオーバーGばかりが目立ってしまいますが、Gコントロールというのは、レースを速く飛ぶために必要なたくさんある要素のひとつにすぎないし、それぞれの要素はお互いに関連し合ってもいる。だから、それだけを取り出して解決できるものでもないし、それだけを解決すれば勝てるわけでもないんです」

新たなG対策は、完了したとまでは言えないものの、「今回のレースに関しては、まず問題ない」と室屋。連覇達成へ絶対に落とせない一戦を前に、必要な準備は整っている。

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©︎Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool

そして迎えた予選。室屋は53秒351のタイムで5位につけた。トップのマティアス・ドルダラーとは0.736秒差。ラウンド・オブ・14での対戦相手が、チャンピオンシップポイントランキングで最下位に沈むニコラス・イワノフに決まったことも含めて、悪くない結果と言っていいだろう。

ただ、これは室屋自身や機体の調子とは無関係な問題なのだが、今回のレースでは少々気になることも起きている。室屋が語る。

「正直、理由はよく分からないのですが、エンジンの調子だとか、パイロットの機体コントロールには特に問題がないのに、タイムにばらつきが出るんです。それは僕だけでなく、パイロット全員が感じていることです。予選が終わって、どこのチームも頭のなかには『?マーク』がいっぱいだったと思います」


室屋は予選1本目、予定通りのラインを確実に飛び、自分自身の感覚では好タイムの手応えがあった。ところが、実際のタイムは54秒232。計算上は51秒台に届くレーストラックで、それはあまりに平凡な数字だった。

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©️Mihai Stetcu/Red Bull Content Pool

結果的に、「1本目があんなタイムだったので、2本目は少し押していった」ことでタイムを上げ、前記したように5位につけることはできた。だが、実際に操縦桿を握っている者の感覚で言えば、1本目と2本目のフライトの間に1秒近いタイム差が生まれる理由は説明がつかない。室屋は「コースのどこかで急に風の状態が変わり、その影響を受けているのか何なのか......」と話し、うーんと唸って首をひねるばかりだ。

「恐らく各チームとも、タイムが上下する理由をつかめていない。僕らも、ベン(チーム・ファルケンのタクティシャン、ベンジャミン・フリーラブ)が解析してくれていますが、原因を突き止めるのは難しいと思います。だとすれば、明日のレースデイは、それぞれのチームが試行錯誤しながら、手探りで臨むことになるでしょうね」

当然、"見えない敵"を相手にしなければならないレースゆえの怖さはある。室屋がその被害者となる可能性も、もちろんある。だが、チャンピオンシップポイントランキングの上位勢がすんなり表彰台に立つのではなく、いわば、荒れたレースになってほしい室屋にとっては、ある意味で歓迎すべき条件なのかもしれない。

がけっぷちの世界王者が挑むラストチャンス。連覇への望みがつながるか否かは、この一戦にかかっている。

 

Report by 浅田真樹)

 

◾️Information

第4選ブダペスト、予選の結果はこちら>>

 

 

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©︎Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool

 

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©︎Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool

 

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©️Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool

 

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©️Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool

 

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©️Mihai Stetcu/Red Bull Content Pool