ポルト予選レポート:逆境をはねのけた、驚異の精神力

室屋義秀とポルト。互いの相性はすこぶるいい。

室屋がレッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップに初参戦した2009年シーズン。その年の第5戦として行われたポルトでのレースで、室屋は最終順位こそ10位に終わったものの、予選では当時自己最高の4位に入っている。

 

しかも、参考までにつけ加えれば、当時の予選は現行のようにひとりのパイロットが2本続けて飛ぶのではなく、まず全員が1本目を順に飛び、インターバルを挟んで2本目を飛ぶという方式だったのだが、1本目終了時点での室屋の順位は2位。苦戦続きだったデビューシーズンにおいて、それは室屋が最も強いインパクトを残した瞬間だったと言ってもいい。

室屋は前戦、カザンでの第5戦で開幕戦以来の0ポイントに終わっていただけに、今回の第6戦がポルトで開かれることは好材料。嫌なムードを払しょくするには、絶好の巡り合わせだったのだ。

ところが、ポルト到着早々、室屋にまさかのトラブルが待ち受けていた。

予選前々日の木曜日、海から吹き込む強い追い風に背中を押されるように、室屋がレースエアポートに着陸したときのことだった。レース機はただでさえ抵抗が小さくなるように設計されているうえ、ポルトのレースエアポートは他の会場に比べて滑走路が短い。風を受けて滑るように前へ進む機体を止めようと、室屋は急ブレーキをかけた。

決して着陸に失敗したわけではない。いくらかイレギュラーな止まり方だったのは確かだが、室屋にしてみれば、フライト環境や気象条件に合わせて機体を制御したに過ぎない。まさか、こんなことで大きな問題が生じようとは想像もしていなかった。

だが、着陸からしばらくして、機体のフレーム内にオイルが入ってきていることが分かった。どこかでオイル漏れが起きている。そのためのチェックがきっかけとなり、細かく調べてみると、フレームの小さなヒビ割れが見つかった。着陸時の急制動によって無理な力がかかったことで、フレームが折れてしまっていたのである。

 

「一般論としては屋外ではできない修理なので、これはもう完全にアウトという状態でした」

室屋がそう振り返ったように、第6戦でのレース出場はもはや不可能かに思われた。

とはいえ、レッドブル・エアレースの会場に集結しているのは、世界のトップパイロットだけではない。彼らをサポートするエンジニアたちもまた、世界のトップレベルがズラリと顔を揃えているのである。スタッフ総出で修理に必要な部品や機具を探してみると、"ダメ元"のつもりが、どうやらすべて揃えられることが分かった。

それが分かれば、もうこっちのものである。チームの垣根を越え、我こそはと名乗りを挙げた腕利きのエンジニアたちが夜遅くまで修理作業を行った結果、ついに予選には間に合うメドが立った。予選前日、金曜日深夜のことである。室屋が語る。

「僕が今までにレッドブル・エアレースで経験してきたことを考えれば、(機体のトラブルは)よくあることと言えばそうなんですけど、それでもやっぱり結構キツかった。最後はテーピングとか、ワックスがけとか、みんなでやってギリギリ間に合った。(テクニシャンの)ピーター(・コンウェイ)なんて、死にそうな顔をしていましたから(苦笑)」

さすがに予選前日の公式練習は2セッションともキャンセルせざるをえなかったが、一瞬とはいえレース欠場も覚悟したことを思えば、被害は最小限に食い止められた。

しかも、「ここは複雑なコースとは違い、直線的なので、(予選日に行われた3セッション目の公式練習で)2分しか飛べなくても何とかなる」のも幸いした。室屋は万全、とまでは言えないまでも、十分に臨戦態勢を整え、予選のフライトを迎えることができた。

「この状況を考えれば、ほぼベストでしょう」と語るタイムは、トップのピート・マクロードと0.780秒差の1分7秒972で、3位につけた。絶望的な機体のトラブルに見舞われ、どうにか出場にこぎつけたはずのフライトだったか、終わってみれば、予選の順位としては第4戦(ブダペスト)での2位に次ぐ、今季2番目の好成績だった。

 

いい意味で拍子抜けするような結果は、室屋とポルトとの相性のよさがなせる業、だろうか。

「本来なら、無事に飛べたからそれでいいや、って言わなければいけない状況だったのに、3位ですからね。チョー上出来って感じです(笑)」

謙遜気味に語る室屋だが、予選2本のランタイムはそれぞれ1分7秒901と、1分7秒972。1本目はインコレクトレベルによるプラス2秒が加算されてしまったが(記録は1分9秒901)、それがなければ、2本のタイム差はわずか0.071秒しかない。「2本目は(ギリギリの好タイムを狙って)一発勝負に出ようと思っていたのですが、1本目でペナルティを受けてしまったので、2本目も1本目とまったく同じように飛びました」という室屋のフライトが、極めて安定している証拠である。落ち着いた表情で、室屋が続ける。

「細かいライン取りの違いはありますが、やっぱり3回あるバーティカルターンがカギになるでしょうね。今日のデータを見てみないと分かりませんが、明日のラウンド・オブ・14からはたぶんもうちょっとタイムを詰められると思います」

ポイントを取れずに終わったカザンでの悪い流れを引きずるかのように、ワールドチャンピオンへの道をあわやふさがれかけた室屋。だが、今となっては、室屋が負の連鎖を気に留める様子はまったくない。

「カザンも流れが悪いというよりは、あれ(雨雲が垂れ込めた悪条件)でやるのはどうかなというレースだったので、その結果を考えてもしょうがないですからね」

今回、室屋が見舞われたトラブルは決して些細なものではなかった。下手をすれば致命傷になりかねないものだったが、しかし、仲間の助けを借り、幸いにして完全に解決されるに至った。

「明日は純粋にガチンコ勝負になると思うし、そうなれば何も心配することはないと思っています」

ジリジリと肌を焼くような強い日差しが照りつけるポルトの空の下、室屋は持てる力を出し切れる状態にある。

 

 

(Report by 浅田真樹)

 

 

■Information

Red Bull Air Race World Championship 2017シーズン第6戦ポルト、決勝レース日のライブストリーミングはこちら>>