千葉 予選レポート:快挙達成へ、視界良好に見えたその舞台裏では……

千葉・幕張海浜公園で開かれているレッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ第3戦は、5月26日に予選が行われ、母国レース3連勝がかかる室屋義秀は3位につけた。

だが、昨年の世界チャンピオンをして、今回の予選3位は「奇跡的にうまくいった」ものであり、「優勝したような気分だった」と振り返る。

史上初の快挙達成へ視界良好にも見える予選の裏側で、いったい何が起きていたのだろうか。

 

©️Jason Halayko/Red Bull Content Pool

 

予選前日の公式練習後のことである。思えば、室屋はすでに"弱音"を漏らしていた。

「福島でトレーニングはしてきたんですけど、レーストラックを飛ぶとまだちょっと......、もう少し慣れが必要かなというところですね。全体に機体が暴れているので......」

4月にフランス・カンヌで行われた第2戦を前に、チーム・ファルケンが新たに導入した新設計のエンジンカウルとウイングチップは、上々の成果をあげていた。すでに第2戦でまずまずの手ごたえを得ていたばかりか、その後の最終調整も「順調に進んだ」と、室屋は語る。

しかし、室屋にとって唯一の不安材料となっていたのが、第3戦での導入を決めた新しい垂直尾翼である。サイズにしておよそ3分の2程度まで小型化された垂直尾翼は空気抵抗が小さくなる分、「繊細にコントロールしてあげれば動きはよくなる」が、その一方で「ちょっとしたセッティングの違いで操縦フィーリングも変わってくるし、直進安定性が悪くなるのでコントロールが難しい」。まさに諸刃の剣だった。

 

©️Balazs Gardi/Red Bull Content Pool

 

そもそも、この"新兵器"は「すでに半年前くらいから準備は進めていたんですが、尾翼の改良は操縦への影響がかなり大きく、投入するためには相当なトレーニングが必要なのは分かっていた」と室屋。実際、カンヌでの第2戦を前に、エンジンカウルやウイングチップと合わせてテストを行いながら、結局は垂直尾翼だけが投入されなかったという経緯もある。だからこそ、「乗りこなせるようになれば全体的に抵抗は減るし、タイムもよくなる」との期待がありながら、「なかなか実戦投入という決断には至らなかった」のだ。

幸いにして今回の第3戦は日本で開催されるため、室屋はホームベースであるふくしまスカイパークに腰を据えて準備することができる。ならばと、地元でトレーニングを重ねることで投入へと踏み切ったが、結果的に判断は時期尚早だったということになる。

予選前日に行われた公式練習から、室屋のフライトは荒れていた。スピードに乗れず、上下左右に暴れる機体。コントロールに苦しんでいるのは明らかだった。それでも「(翌日の予選の前に公式練習が)あと2セッションあるので、フライトも落ち着くんじゃないかなと思う」と、室屋は前向きに語っていた。

 

©️Mihai Stetcu/Red Bull Content Pool

 

だが、翌日の公式練習を重ねてもなお、思うような結果は得られなかった。他のパイロットたちのタイムが56秒台から55秒台に入ろうとしているなか、室屋は57秒を切ることすらできずにいた。

果たして室屋は、公式練習がもう1セッション残されているにもかかわらず、翌日のレースデイでは元の垂直尾翼に戻して戦うことを決断した。室屋が語る。

「だんだんよくはなっていたので、昨日(予選前日)の段階では行けるかなと思ったんですが......、予選1本目のようにずっとスムーズに行けば問題ないが、(シケインでトゥー・ローのペナルティを受けた)2本目がそうだったように、一回乱れ出すとコントロールするのが容易ではない。狙ったラインに思い切って入っていけないのでラインを外してしまい、それが積み重なってフライト全体が乱れてしまう。このままでは勝負どころで勝ちに行けないし、元に戻すなら早めに判断したほうがいいと思い、公式練習の段階で決めました」

 

©️Samo Vidic/Red Bull Content Pool

 

とはいえ、室屋にとって、これは誤算による苦渋の決断というわけではない。

「元に戻す可能性も考えていたので、すぐに変えられるように第2戦までの垂直尾翼も準備していました。カメラの装着などがあり、結構セッティングに時間はかかりますが、まったく想定外だったわけではありません」

しかも、苦戦を覚悟で臨んだ予選では、3位という望外の好結果を手にすることができた。苦しむ室屋に追い風が吹いている。そう見ることもできる。

「明日は(第2戦の)カンヌのときのセッティングに戻すので、落ち着いて飛べると思います」

戦力アップを狙って投入した新兵器は、あえなく取り外すことにはなった。だが、シーズン全体を考えれば、必要なチャレンジの結果である。

室屋は一連の経過を悔やむどころか、むしろ最悪の事態を免れたことに安堵し、すでに3連勝がかかるレースデイへと視線を向けている。

 

(Report by 浅田真樹)

©️Balazs Gardi/Red Bull Content Pool
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©️Mihai Stetcu/Red Bull Content Pool
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