ラウジッツ予選レポート:追う者と、追われる者

2017年のレッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップも残すところ、あと2戦となった。年間総合優勝争いもいよいよ佳境を迎える。

前回の第6戦(ポルト)で6位に終わり、チャンピオンシップポイントランキングで4位に順位を下げた室屋義秀には、すでに自力での年間総合優勝の可能性がなくなった。残る2戦で自らが好成績を残なさなければならないのはもちろんのこと、上位のパイロット、特にトップに立つマルティン・ソンカに"コケて"もらう必要がある。

まさに正念場を迎え、第7戦の開催地であるドイツ・ラウジッツリンクに入った室屋は、しかし、意外なほど表情が明るく、落ち着いた様子を見せていた。

「前回のポルトから2週間しかなかったので、そのままヨーロッパに残り、スロベニアで機体の調整やトレーニングをしてきました。3週間以上レース間隔が空いて一度日本に帰るよりも、時差や体調という点では楽かもしれないですね」

実を言うと、前回のポルトで破損した機体のフレームの溶接部分が再び割れ、スロベニアでは、まずは機体の修理に時間を取られた。室屋曰く、「本当なら先週の金曜日(9月8日)くらいから、機体の調整をしながら飛べるはずだったんですけど、ひび割れが見つかって1週間大騒ぎ。結局、日曜日(9月10日)からしか飛べませんでした」

それでも表情が明るいのは、「時間が短くなってしまった割に、機体の調整も進んだし、いいトレーニングができた」からだと室屋。「なんかちょっと"乗れている"感じがします。(優勝した第2戦の)サンディエゴのときのような雰囲気で飛べています」と、笑顔を見せた。

 

そんな自信のコメントを裏づけるように、予選日に行われた公式練習3本目では50秒004という圧倒的なトップタイムを記録。続く予選でも公式練習のタイムには及ばなかったものの、2本のフライトとも50秒台なかばのタイムでまとめ、50秒400で3位(トップのマット・ホールとは0.173秒差)につけた。

「タイムも安定しているし、いい感じですね。一発勝負に出れば、公式練習くらいのタイムは行けたかもしれませんが、恐らくレースはこのくらい(50秒台前半)の勝負になると思うので、変に無理をして全体のペースを崩すよりも、レースラインでビシッと飛んで安定したフライトを続けていくほうがいいだろうと判断しました」

チャンピオンシップポイントランキングで室屋の上を行く、ソンカ、ピート・マクロード、カービー・チャンブリスがタイムにバラつきがあったり、ペナルティを犯したりと安定感を欠くなかで、室屋はステディなフライトが目立つ。

 

それにしても、目標とする年間総合優勝へ向け、もうひとつのミスも許されない土壇場に追い込まれながら、室屋はあまりに落ち着いている。落ち着きすぎていると言ってもいい。

「サンディエゴのときは覚醒している感があって、どんなトラックでも簡単に飛べるんじゃないかというくらいの感覚がありました。今回はそこまでではないにしても、非常によくトラックが見えて、落ち着いて飛べているのは確かです」

勝負がかかった残り2戦。もっと気持ちが高ぶり、苛立つようなそぶりさえ見せても不思議はないが、室屋は「そうならないようにしています。高ぶったところで勝てるわけではないので」と、達観したように語る。

「もちろん、自分が勝つだけでは目標に届かないのは分かっています。でも、あれこれ考えをこねくり回したところで、(他のパイロットの成績は)どうにもできない。だったら、ともかく自分たちのベストを尽し、確実に飛ぼう、と。それがチームとして至った結論です」

ある意味で開き直って臨んだ結果、予選ではソンカ(5位)、マクロード(7位)、チャンブリス(4位)を上回ることができた。シーズン終盤に来て、世界チャンピオンの座がちらつく彼らには当然、相応のプレッシャーがあるだろう。むしろ前のレースで順位を下げた室屋には、追う者の強みが生まれているのかもしれない。

しかも、ラウンド・オブ・14では(安易な予断が禁物であることは承知のうえで言えば)、室屋がランキングでブービーのフランソワ・ルボットとの対戦となった一方で、ソンカがニコラス・イワノフ、マクロードがマイケル・グーリアンと、"一発の怖さを秘めた"厄介な相手と対戦することになった。

室屋に追い風が吹き始めているのではないか。ひいき目でも何でもなく、客観的に見て、そんな印象を受ける展開になり始めている。逆転優勝の可能性を論じるのは、いくらなんでも気が早いとしても、危機的状況に光が差し込み始めているのは間違いない。

 

あたかも山の天気のごとく、低く垂れこめた雲の合間から突然太陽が顔を出したかと思えば、ポツポツと雨が落ちてくることもある。そんな先を見通せないラウジッツリンクの天候も、幸いにしてレースデイはどうにか持ちこたえてくれそうな予報となっている。当初の雨予報は覆され、無事に本選レースは開催される見込みだ。

「風もほとんど吹かない予報なので、いいレースコンディションになりそう。上位勢とは機体の性能的にもほぼ互角だし、パイロットの勝負になる。明日はガチンコ勝負になりますね」

予選を終え、自身のフライトを振り返って話をする室屋の顔からは、終始笑みがこぼれた。なるほど室屋が発する空気は、サンディエゴで優勝した当時を思いださせる。単なる強がりではなく、自信、余裕、落ち着き......、そうした種類のものが彼の表情に、言葉に、よく表れている。

ガチンコ勝負は望むところ――。室屋の顔には、しっかりとそう書いてあった。

 

(Report by 浅田真樹)

 

 

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