速報インタビュー : 室屋はなぜ“また勝てた”のか?

祝福ムードのなか王座を見据えた室屋が意外な本音を語る

誰もが期待する日本戦連覇という偉業を成し遂げた室屋義秀が、レース後の取材対応を次々にこなすなか、興奮冷めやらぬ、といった様子を見せるのは、むしろ当の本人よりも取材するメディア側だったかもしれない。

「前回の(優勝した)サンディエゴ戦は覚醒しているような感じがあり、自分自身でも勝てるんじゃないかという感覚がありました。ですが、今回は非常に苦しい戦いでフライトもサンディエゴほどソリッドではなく、ミスもあるなか、ラッキーで勝ち上がることができた。自分の力だけで勝ったんじゃないなと思っています」

冷静にレースを振り返る室屋は、「ラッキー」や「奇跡的」という言葉を繰り返し用い、今回の勝利を表現した。

「それが正直なところですよね(笑)。ラウンド・オブ・14は、勝ったとはいえ(0.007秒差という僅差で)ギリギリだったし、ラウンド・オブ・8のマット(・ホール)のペナルティも、どうかなというかなり際どいもの。ファイナル4のマルティン(・ソンカ)のペナルティも結構イージーなもので、あれがなかったら僕のタイムよりもだいぶ速かった。そういう意味では、かなりのラッキーがあったと思います」

室屋はこの日、フライトをこなすなかで、自らのコンディションが完璧な状態にないことに気がついていた。フライトを終えてタイムを確認するまでもなく、自身の感覚が、室屋にそのことを伝えていた。「何が原因かは分かりませんが、フライトのクオリティはサンディエゴのほうがずっとよかった。今回はファイナル4になってもなお、ラフな部分がまだ残っているような状態だった」という。

いつものように150㎞のスピードボールを投げられれば、相手の打者を抑えられるのは分かっている。だが、今日の自分は調子が悪く、140㎞のボールしか投げられない。ならば、140㎞でいかに抑えるか。室屋はそこに腐心した。

「自分では、サンディエゴのときのような完璧に近い状態に届いていないのは分かりつつ、でも、それで戦うしかない。直前に何か新しいことをやろうとしても無理なので、日々準備していること、例えば、飛ぶ前のルーティーンがあり、セットアップがあり、それらをひとつずつ繰り返すだけなんですが、そういう基本的なことを積み重ねることで、どうにか最低限のコンディションに戻すことができた。そんな状態でした」

だが、室屋は「それでも」と言葉をつなぎ、こう続ける。

「130kmだったら打たれるだろうし、140kmでもコントロールが悪ければ打たれてしまう。悪いなりに140kmのボールを投げられたから、勝てたんだと思います」

「ラッキー」や「奇跡的」という表現は、決して自分の成果を卑下しているわけではない。言葉の裏にあるのは、巡ってきた幸運を生かせるだけの底力がついてきた。そんな手応えだと言ってもいい。

「もしも2009年のデビュー当時の自分だったら、他のパイロットの全機のエンジンがかからないくらいのラッキーがないと優勝できなかったでしょうからね(笑)。ファイナル4を例に取れば、僕が最初に飛んで55秒288というタイムを出した。誰にも超えられないというほど完璧なタイムではなかったかもしれないけれど、他のパイロットもそのタイムを聞けば、『これを超えるのは簡単じゃない。ペースを上げないと優勝はできないな』と思ったはず。最終的に他のパイロットがペナルティを犯して優勝できたのは、そのプレッシャーを与えた結果ではあると思います」

もちろん、いかに底力がついたと言っても、このコンディションで毎戦優勝することが難しいのは、室屋もよく理解している。

「この状況で優勝できたことが自信になるというより、どういう状況になると、自分がどれくらい崩れて、どれくらい持ちこたえられるか。その限界テストという意味で、このレースを勝てたことは大きかった。でも、それはまだ完璧なコンディションをキープするだけの能力はないということでもあり、今日のフライトのクオリティではラウンド・オブ・8で落ちていてもおかしくはなかった。もう一段強くなる必要がありますね」

だからこそ、室屋はこの勝利を「底力がついてきた証」だと強調するのではなく、あくまでも「ラッキー」だと言い、「奇跡的」だと表現するのである。

「長年努力してきたのは事実なので、今回の優勝はそれに対するファンの人からのボーナスみたいなものなのかな。いろいろと積み重ねてくると、たまにはこういうことが起きるんだなって感じです」

ともあれ、2連勝を果たしたことで、室屋はチャンピオンシップポイントを30ポイントに伸ばし、ランキングのトップに立った(ポイントではソンカと並んでいるが、優勝回数で上回る室屋が上位となる)。もちろん、室屋にとって自身初の高みである。

「これもまた新しい世界ですよね。30ポイントというのは、すでに昨年の最終ポイント(31.50ポイント)とほぼ並んでいます。年間優勝は50~60ポイントくらいの争いになってくるでしょうから、先は長いし、まだまだ気は抜けませんけど、第3戦終了時点としては非常にいい位置につけていると思います」

室屋の優勝はこれで3度目。優勝という事実だけを手放しに喜ぶ段階はとうに過ぎ去り、連覇に沸く周囲の喧騒をよそに、この勝利の意味や価値を冷静に受け止めている。

そんな姿勢があればこそ、室屋は僥倖と遭遇できたに違いない。

 

(Text by 浅田真樹)