カザン予選レポート:悔しくも納得のフライト

第2戦カザンの予選フライト終え室屋が心境を語る

 

室屋義秀は4か月前の開幕戦で、予選トップからの“ポール・トゥ・ウィン”で優勝。そして、今回の第2戦に入っても、3本のフリープラクティス(FP)すべてでトップタイムを記録。しかも、FP全体で1分3秒を切るタイムがほとんど出ないなか、この日本人パイロットだけが3本すべてを1分2秒台で揃えていた。

 

他を寄せつけない圧倒的な強さは、もはや室屋の2連勝が動かしがたいものであるかに思わせた。3本のFP、さらには予選トップから優勝となれば、まさにパーフェクトゲーム。そんな史上空前の快挙すら、実現可能に見えた。

 

だが、世界中から集まった歴戦の猛者たちは、そうは簡単に室屋の独走を許してはくれなかった。陳腐な言い方ではあるが、勝負はそれほど甘くはなかった、ということになる。

レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップの2019年第2戦は、6月15日に予選が行われ、室屋は1分1秒944のタイムで4位に終わった。

 

予選4位を「惨敗」と表現すれば、さすがに大袈裟に聞こえるだろうが、それまでの流れを考えると、かなり意外な結果であったのは間違いない。室屋は開幕戦に続く、予選トップでの3ポイントを逃したばかりか、ポイント獲得圏内となる3位にすら入ることができなかった。

 

しかし、この結果が「惨敗」と表現するに当たらないことは、予選を終えた室屋の表情が何より雄弁に物語っていた。第2戦を前にヨーロッパでトレーニングを重ね、よく焼けた顔に暗さはなかった。それどころか、やることはやったというスッキリした表情で、室屋は自身のフライトを振り返った。

 

「順位を聞いたときは、『ちぇ、ポイントを取り損ねたか』と思いました(笑)。でも、このタイムなら、上等でしょうね。100点満点ではないにしても、98点くらいかな。今日のコンディションだと、僕が100点満点のフライトをしたとしても勝てたかどうかっていうくらい、ミカのフライトははなかなかのものでしたから」

この予選で3ポイントを獲得したのは、ミカ・ブラジョー。自身初の予選トップに立ったフランス人パイロットは、最終セクションでこれ以上ない見事なフラットターンを決め、他のパイロットたちを後方へ置き去りにした。タイムは1分1秒431。1分2秒台突入はおろか、一気に1秒台前半まで縮めるスーパーラップだった。

 

室屋も苦笑交じりに、ブラジョーを称える。

 

「ミカのタイムは、コンピューターでの計算上、このレーストラックでのベストに近い。あそこまで完璧にやられると、ちょっとね……。拍手ものでした」

 

とはいえ、「(オーバーGによるDNFや1秒ペナルティの)リスク覚悟の一発勝負なら、タイムがあそこまで上がるのは分かっていた」という室屋が、「でも、ファイナル4ならともかく、予選でそこまでやらなくてもいいと思ったし、やらなくても勝てるかなと思っていた」のも確かである。

 

では、なぜ室屋はブラジョーのタイムに届かなかったのか。それどころか、2位のマルティン・ソンカ、3位のフランソワ・ルボットにすら及ばなかったのか。

「予選1本目は、FP3くらいのタイム(1分2秒351)は出るかなと思ったんですけどね。このトラックは旋回が続くので、結構難しい。普通のトラックだと、タイム差がそんなに出ることはないんですが、ここは旋回時のGのかけ方とか、ラインの取り方とか、ほんのちょっとズレるだけで1秒くらいは違ってくる。だから、かなり繊細にコントロールする必要があるんです。そういう意味では、1本目のコントロールは、ちょっとラフだったんだろうなと思います」

 

しかも、予選が行われた夕方のカザンは、時間とともに徐々に風が強まり、「今日は早い順番で飛んだほうがトラックタイムが速かった」。その条件を最大限に味方につけたのが、3番目に飛び、3位に入ったルボットということになるのだろう。逆に最後に飛んだ室屋には、これが不利に働いた。

 

「1本目のタイムが思った以上に遅かったので、これは(2本目で)ちょっとプッシュしないと、全然追いつかないと思ったので、結構押していきました。実際、最後のフラットターンは11Gギリギリで飛んでますからね。ノーペナルティで行こうと思えば、あのくらいが限界だったと思います」

 

しかしながら、1本目でトラックのコンディションを見極め、2本目でトップに迫るタイムを出すあたりは、ブラジョーのタイムに届かなかったとはいえ、さすがの強さを示したとも言える。室屋自身も、「レースデイは全体に少しタイムが落ちるので、今日くらいのタイムで十分勝ち上がれるはず。だから、そんなにラインを変えたりしなくても、これくらいでいいと思います」と語り、予選4位という結果にも、焦りや落胆の色を浮かべてはない。

 

元々、ブラジョーについては、「ミカの機体(MXS-R)は翼の形状などから、(旋回が続く)このトラックでは速いだろうと思っていた」。また、開幕戦で室屋と優勝を争い、この予選でも2位つけたソンカについては、「(条件の悪い)最後のほうで飛んだのに、さすがだった」

開幕戦から続いた“ひとり勝ち”状態に待ったをかけられながらも、室屋は悔しがるどころか、さらなるやる気を掻き立てられているかのようだ。

 

「今回も僕が1秒くらいぶっちぎって予選を勝っていたら、見ている人はしらけていたかもしれない。もちろん、自分にとって、この結果がよかったということはないけれど、見ている人にはおもしろくなったのかもしれません。僕もファイナル4では、(予選のブラジョーのフライトのような)ああいう勝負をしたいと思います」

 

まさかに思えた「惨敗」も、いわば想定内。2年ぶりの王座奪還を目指す元・世界チャンピオンは、不敵な笑みを浮かべ、早くも翌日のレースへと視線を向けていた。

 

 

(Report by 浅田真樹)

  

︎Information

 

カザン2019 予選結果はこちら>>

 

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