カザンRACE REPORT:王座奪還へのカウントダウン

アブダビに続く2連勝を成し遂げた室屋がレースを振り返る

 

今シーズン限りでレッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップが終了するとの衝撃の発表がなされてから、最初のレース。ロシア・カザンでの2019年第2戦は、そんなデリケートなタイミングで行われた。

 

各チームに、各パイロットに、動揺はないのか。今まで通り、勝負に集中できるのか。

 

ましてラストシーズンとなることが決まった今年のレース数は、当初予定の8戦から、4戦へと半減されたのである。開幕戦はすでに終了していることを考えれば、残されているレースはわずか3戦。各チームのハンガーが並ぶレースエアポートに、いつもとは違う、どこか落ち着かない雰囲気が漂っていたとしても不思議はなかった。

ところが、である。

 

勝負は勝負。レースに参戦している以上、最後まで全力を尽くすのが自分たちの役目だ――。レッドブル・エアレースに関わるすべての人たちがそのことを理解しているかのように、少なくとも勝負の現場では、これ以上ない悲しいニュースに対しも、誰もがいい意味で“無関心”だった。室屋義秀が語る。

 

「正直、ちょっと難しいところはあるでしょうし、レースが始まる前はパイロット同士、いろんな話はしましたけど、始まってしまえば、どのチームもやることはルーティンで決まっているので、他のことを考えている暇もなく、それに集中している。だから、意外といつも通りでしたね」

 

実際、レースを見ていても、開幕戦では7位に終わっていたミカ・ブラジョーが予選でトップに立てば、同じく12位だったフランソワ・ルボットがファイナル4へ進出。その一方で、開幕戦では3位の表彰台に立ったマイケル・グーリアンがラウンド・オブ・14で敗退するなど、誰が勝っても負けてもおかしくない、しびれるような勝負の連続だった。

そんななか、安定した強さを示したのが室屋である。一昨年の世界チャンピオンは、開幕戦に続き、第2戦も制してみせた。

 

とはいえ、このレースの室屋からは、本人が「アブダビのときのほうが、パパンと勝っちゃった感じはありますね」と認めるように、開幕戦を制したときの、相手をねじ伏せるような圧倒的強さは感じられなかった。

 

「3本のフリープラクティス(FP)で全部トップを取ったとはいえ、そんなにぶっちぎっていたわけでもなかった。ちょっとラッキーだったところもありましたからね」

 

室屋はそう語り、「だから、レースデイも気が抜けない感じがありましたし、かなり緊張感がありました」と続ける。「決してイージーなラウンドはなかった」が、それでも際どく相手を上回り、各ラウンドを勝ち上がっていった。

 

なかでも、室屋が「一番厳しかった」と振り返るのが、予選トップのブラジョーとの対戦となった、ラウンド・オブ・8である。

この日のカザンは、時に明るい日が差したかと思えば、突然大雨が降り出すなど、目まぐるしく天気が移り変わった。当然、前日の予選と比べても、条件は悪く、概ねトラックタイムは落ちた。予選ではトップの4人が1分1秒台のタイムを記録したが、レースデイでは、マット・ホールがただ一度、ラウンド・オブ・14で1分2秒台を記録したのを除き、あとはすべて1分3秒台以下のタイムだった。

 

とりわけタイムの低下に影響したのは、ラウンド・オブ・14とラウンド・オブ・8の間で、風向きがまったく逆方向に変わったことである。

 

「FPや予選も含め、それまではずっと西からの風だったのが、ラウンド・オブ・8からは風向きがシフトして、東側に回り込んだ。それによって、トラックタイムが一気に1秒くらい落ちたんです」

 

ただでさえ旋回が連続するカザンの難コースは、最適なライン取りをするために、「微妙なさじ加減で機体をコントロールする必要があった」と室屋。それがまったく逆方向に変化した風のなか、事実上、ぶっつけ本番で飛ぶとなれば、「0.1秒どころか、100分の1秒単位での操作が必要」となった。

加えて、相手は予選で驚異的なタイムを叩き出したブラジョーである。「ここは一発勝負に出よう」と、室屋はペナルティのリスクを承知で「タイムを出しにいきました」。結果は1分3秒049。先に飛んだ室屋が、「これで負けたら仕方がない」と言うほどのタイムを記録した。

案の定、ブラジョーは室屋のタイムに気おされたかのように、インコレクトレベルのペナルティを連発。自滅する形で敗れ去った。

最大の山場を越えてしまえば、あとはもう気が楽だった。ファイナル4の最初に飛んだ室屋は、自画自賛のフライトで今回のレースを締めくくった。

「(その日の)3回目のフライトだし、(ラウンド・オブ・8で飛んでみて)風の変化も分かっていたし、ファイナル4のフライトはもう100点って感じでした。正直、1分3秒フラットくらいは出るかと思っていたので、1分3秒496と聞いたときは、『あれっ?』と思いましたけど、自分でもミスが分からないくらい、フライトのクオリティは高かった。だから、たぶんトラックタイムがさらに落ちているんだろうな、と。マルティンがどれくらいのタイムを出すかな、とは思いましたが、かなりの確率で勝てるんじゃないかという手ごたえはありました」

室屋の予想通り、2番目のマルティン・ソンカも、3番目のルボットも、最後に飛んだホールも、室屋のタイムを超えることはできなかった。室屋はレースエアポートで、ホールのフライトを見届けると、ガッツポーズとともに雄たけびを上げ、チームスタッフと喜びを分かち合った。

これで室屋は開幕戦に続く、2連勝。2017年の第7、8戦以来となる連勝は、すなわち、今年の全レースのうち、すでにその半分を制したことになる。

 

「ある意味、(年間総合優勝に)王手をかけている状態だと思うので、次(第3戦)を取ってしまえば、現実的にはかなり近づくと思います。でも、勝負は時の運。マルティンとは9ポイントしか離れていないし、マットも好調で(チャンピオンシップポイントランキングの)3位まで順位を上げてきている。まだチャンピオンシップを考えるの早いかな、っていう感じですかね」

 

もちろん、室屋の2年ぶりとなる年間総合優勝が近づいていることは、喜ばしいことではある。だが、レース後の記者会見で、室屋に投げかけられた「今のヨシを倒すのは難しい。残り2戦も勝ち続けることができるのではないか」との質問を耳にし、ふいに、レッドブル・エアレースはもうわずか2戦しか残されていないのだ、という現実に引き戻される。

 

室屋の王座奪還へのカウントダウンは、同時に、レッドブル・エアレース終了へのカウントダウンでもある。そのことが、あまりに切なく、悩ましい。

 

 

(Report by 浅田真樹)

 

 

︎Information

 

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