バラトン湖RACE REPORT:気まぐれな風が変えた勝負の流れ

ラウンド・オブ・14での敗退。あの瞬間室屋に何が起きたのか

例えば、スキーやゴルフがそうであるように、屋外競技において自然との戦いは常だとはいえ、場合によっては、気象条件の変化が大きく勝負を左右する。その怖さをあらためて思い知らされたレースではなかっただろうか。

今シーズン開幕戦からの2連勝で、2年ぶりの年間総合優勝に大きく近づいていた室屋義秀が、まさかラウンド・オブ・14敗退に終わるとは――。

 

レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ第3戦の会場となったバラトン湖は、ハンガリー有数のリゾート地。だが、彼の地はレースデイの7月14日、そんな優雅なイメージとは異なり、朝から上空をどんよりとした雲が覆い、吹きつける冷たい風が湖面を波立たせていた。

 

しかも天気予報によれば、レースが行われる午後に向かい、少しずつ太陽が顔を出してくる一方で、北西からの風は徐々に北からの風へと向きを変え、強さが増しこそすれ、「弱まる可能性はほとんどゼロのはずだった」(室屋)。

 

 

ラウンド・オブ・14のヒート3で先に飛ぶ室屋は、当然、それを想定してレースエアポートを飛び立った。

上空で待機する間も、コックピット内の機器で風の状態を確認。リアルタイムのデータは、毎時10ノットを超える風が吹いていることを示していた。「事前に想定したプランで問題ない」。室屋は最終的なライン取りを確定し、スタートゲートへと向かった。

 

室屋が「事前に想定したプラン」とは、今回のレーストラックに3つある大きなターンのうち、ゲート5と13は、完全に垂直なバーティカルよりは、少し(進入方向から見て)右に傾けたターンを行い、ゲート9では、左回りのフラットターンを行うというもの。「北から強い風が吹くことを想定したライン選択だった」

 

ところが、室屋がデータの確認を終え、スタートするまでのわずか数分の間に、不思議と風が急激に弱まった。というより、ほぼ収まった、と言ってもいい。

 

チーム・ファルケンのハンガー内では、レース分析を担当するテクニシャンのベンジャミン・フリーラブが、PC画面のなかの想定外の事態――風速を示す数値がみるみる下がっていくのを見て、思わずつぶやいた。

 

「これは、マズいぞ」

しかし、もはやなす術はなかった。以下は、室屋の述懐である。

 

「風の変化がもう1、2分早ければ、ラインを変える判断もできたと思うんですが、風がフライトの直前、ホントに直前で止まってので……。あのコンディションのなかで、風があることを想定したラインで飛べば、タイムが落ちるのは明白。特にゲート9でフラットターンをしたことで一気にタイムが落ちた。北風がないなかであれをやれば、少なくとも1秒はロスしますから」

 

フィニッシュゲートを通過した瞬間の感触で言えば、「フライトの出来自体は悪くなかった。完璧とまでは言わないが、59秒なかばか、遅くとも59秒7、8くらい。少なくともファステスト・ルーザーで残れるくらいのタイムは出ていると思っていた」。にもかかわらず、無線で伝えられたタイムは1分01秒016。耳を疑うような数字に、室屋は「エンジンに何か問題があったのかと思った」ほどだった。

 

室屋は「風ばかりは自分ではコントロールできないからしょうがない」と言いつつも、「今日の予報であの風の変化は、まさか起きないでしょ?っていうのが、正直なところ」だと嘆く。

 

対戦相手のマット・ホールもまた、風があることを想定したプランで離陸したが、先に飛んだ室屋のフライトを上空から見たうえでタイムを聞き、すぐにプランを変更。ゲート13では、予選とそれまでのラウンド・オブ・14では誰もやっていなかった左回りのフラットターンを選択し、59秒232を記録した。室屋にしても、「あの風の条件なら、左ターンが速いのは分かっていた」が、天気予報からはほぼ予測不能だった風の変化のタイミングが、両者の明暗を分ける結果となった。

ホールに完敗を喫した室屋は、ファステスト・ルーザーにも残れず、開幕戦から3連勝の夢は早くも潰えた。

 

とはいえ、室屋のタイム、1分01秒016は、ペナルティによる加算を除いたネットタイムで言えば、ラウンド・オブ・14で最も遅いタイムである。風の状態とラインの選択にミスマッチがあったというだけでは、説明がつかないほどに遅い。いったい室屋のフライトに、何があったというのか。

 

そこには前日に起きたアクシデントが、少なからず影響を及ぼしていた。

 

室屋は前日の予選1本目で、一度はノーペナルティと認められながら、フライトを終えてしばらくしてから、ゲート13でクロッシング・ザ・トラックリミットラインがあったとして、1秒加算のペナルティを受けている。それは当然、すでに2本目――1本目がノーペナルティだったことを前提に、さらに攻め込んだフライトを終えた後のことである。

 

2本目では、いわば確信犯的にクロッシング・ザ・トラックリミットラインのペナルティを受けたわけだが、その結果、室屋はペナルティを受けないギリギリの範囲の感覚を、実際のフライトでつかめないまま、予選を終えることになったのである。室屋が語る。

 

「ゲート5と13は、バーティカルよりもフラットにターンしたほうが速いのは分かっているけど、フラットに回ると、昨日(予選)よりも風が弱い分、(押し戻されずに)どうしてもクロッシング・ザ・トラックリミットラインのリスクが大きくなる。それにこっちは昨日のことがあり、どこまでがセーフかが分からない。だから、その分タイムが落ちるのは分かっていましたが、ちょっと安全に(より垂直方向に近い右ターンで)行くことにしたんです」

その結果が、ラウンド・オブ・14で最も遅いネットタイムである。前日の不可解な裁定は、「メンタル的にはそれほど影響はなかった」と室屋は言うが、「水を差されたというか、流れが変わった感じはあった」と明かすように、この第3戦で早々に姿を消す引き金になったのは確かだろう。

 

今回のレースで2ポイントを獲得するにとどまった室屋は、第2戦まで守ってきたチャンピオンシップポイントランキング首位の座から陥落。まだ年間総合優勝圏内の3位(55ポイント)につけているとはいえ、室屋に代わって首位に立ったマルティン・ソンカ(65ポイント)とは、10ポイントも離されている。2019年シーズンも、残すは千葉での最終戦のみ。室屋に自力での逆転優勝の可能性はなくなった。

 

不運もあった。アクシデントもあった。だが、理由はともあれ、室屋の王座奪還に黄色信号が灯ったことは間違いない。

 

 

(Report by 浅田真樹)

 

 

︎Information

 

2019シーズン第3戦バラトン湖(ハンガリー) 最終結果はこちら>>

 

バラトン湖 予選レポートはこちら>>

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