千葉 予選レポート:狂ってしまった逆転のシナリオ

予選を5位で終えた室屋義秀 心境は如何に

2年ぶりの王座奪還を目指す室屋義秀が、崖っぷちに追い込まれた。

 

レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ今季最終戦を前に、チャンピオンシップポイントランキングで首位を行くマルティン・ソンカ(65ポイント)と、同3位の室屋(55ポイント)とのポイント差は10。室屋が最終戦でこの差をひっくり返すためには、できることなら、予選の段階で少しでもポイント差を詰めておきたいというのが、本音だったはずである。

 

室屋が予選トップで3ポイントを獲得できれば、少なくとも1ポイント、最大で3ポイントもの差を詰めることができる。逃げるソンカに、背後に迫る足音を聞かせたうえで、本選レースへ臨む。それこそが、室屋が思い描く理想のシナリオだったのだ。

 

事実、室屋は最終戦を前に、「予選から勝負に出る。3ポイントを取りにいく」と公言してはばからなかった。

 

ところが、である。

室屋が描く逆転のシナリオにおいて、重要な第一幕でトップに立ったのはフアン・ベラルデ。自身2度目の予選トップを記録したスペイン人パイロットに、およそ0.8秒の後れを取った室屋は5位にとどまり、予選でのポイント獲得に失敗した。

 

しかも、ライバルのソンカは、予選2位で2ポイントを追加。室屋とソンカとのポイント差は、縮まるどころか、12ポイント差まで広がった。これは、室屋がこのレースで優勝したとしても、ソンカが6位以下に終わらなければ逆転できない大差である。

 

ソンカが予選トップには届かなかったこと、さらにはチャンピオンシップポイントランキングで2位につけるマット・ホールもまた、予選7位でポイント獲得はならなかったことが、せめてもの救いではある。だが、起こりうるなかでは、最悪の部類に入る結果だろう。

 

「(予選の前に行われた)フリープラクティスに比べると、風の向きや強さ、あとは湿度による空気密度の違いで、全体にタイムが落ちるのは分かってました」

室屋は予選時の気象条件について、そう語り、自らのフライトについて述懐する。

 

「最初は南西の風だったのが、予選が進む間に風がシフトし始めて、ちょうど僕が飛ぶころに(風向きが)南西から南東に振ったり、振らなかったり。そのうえ、(風の強さも)ちょっと強くなったり、止まったりという状態でした。なので、フライト中に何度か横に流される感じがあって、2回くらいパイロンヒットしそうになるのをよけたことでラインが崩れ、その後タイムが落ちてしまいました」

 

実際、室屋は途中3か所で示されるラップタイムのうち、最初のタイムではベラルデを上回りながら、2か所目のタイムで後れを取り、以後、タイム差を広げられている。

 

室屋が「特に難しかった」と語るのは、ゲート2(折り返し後のゲート8、10)。「瞬間的だったと思うんですけど、あのあたりで急な風の変化があって、非常に飛びにくい状況でした」と振り返る。

一般論で言えば、よくも悪くも気象条件(運、と言い換えてもいいだろう)に左右されるレッドブル・エアレースという競技においては、予選5位なら決して悪くはない成績である。翌日の本選レースでの巻き返しに向け、まずまずの位置につけた。そう言ってもいいだろう。

 

しかし、最終戦での逆転優勝だけを見据える室屋にとっては、ポイントを得られなかった5位は痛恨の結果以外の何物でもない。

 

加えて、9月8日のレースデイは、南の海上から関東地方に向かって接近する台風15号の影響を避けるため、当初14時予定だったレース開始時刻が、10時に繰り上げられた。過去にも、レース開始時刻が変更になったことはあるが、「午前中に飛ぶのは初めてじゃないかな」と室屋。7月の第3戦が終わって以降、室屋がコツコツと作り上げてきた逆転のシナリオは、早くも書き換えを迫られている。

 

 

だが、言い方を変えれば、開始時刻が繰り上がったことで、ほとんど台風の影響を受けずに、レースを開催できる見込みが立っている。室屋曰く、「(台風の動きは予想できていたので)午前中に飛ぶことは想定していたし、風も今日とは向きが変わるだけで強くはならない」。絶好の、は言い過ぎだとしても、「当初の開始時刻だとかなり荒れる可能性があったけれど、(午前中なら)レース開催には十分なコンディションだと思います」と、突然の変更も歓迎の様子だ。

何より、今回のレースは2019年の最終戦であると同時に、レッドブル・エアレースの最終戦でもある。開始時刻変更に当たっては、解決すべき様々な問題が生じるのは間違いないが、室屋は「飛べないで終わるより、レース結果が出たほうが絶対いい。朝すぐに始まったほうが、むしろレースに集中できていいかもしれない」と冗談交じりに語り、笑顔を見せる。

 

もちろん、レース開始時刻が変更になろうとなるまいと、室屋が苦境に立たされているという事実は動かしようがない。

 

この日の予選結果により、現時点で自力優勝の可能性があるのは、ソンカのみ。ソンカは最終戦で2位以上になれば、他のパイロットの順位にかかわらず、昨年に続く連覇が決まる。その一方で、室屋は仮に優勝して25ポイントを獲得したとしても、前述の通り、ソンカの6位以下はもちろん、ホールも4位以下で終わらなければならないのだ。

 

室屋自身、「あれだけの難しいコンディションで、あのタイムを出すマルティンはさすが」と認めるように、今年のソンカの安定感は群を抜いている。今年の3戦を振り返っても、すべてのレースで予選は4位以上につけ、本選ではファイナル4へ進出。優勝こそないものの、年間総合優勝争いという点では、盤石の戦いぶりを見せつけている。そんなディフェンディング・チャンピオンが、6位以下に終わる可能性は、現実的に考えて、かなり低い。

それでも室屋は、「マルティンがファイナル4まで上がってきたら、もう勝ち目はない」と、自身が置かれた状況を理解したうえで、でも、とつないで、強い決意を口にする。

 

「(ソンカの)6位以下(が逆転優勝の条件)なら、まだ全然分からない。マルティンだって、ラウンド・オブ・14で終わればアウトだし、フタを開けてみなければ、勝負は何が起こるか分からないから。結果はともかく、僕は自分のベストタイムを出すだけです」

 

室屋はただひたすらに、人事を尽くして天命を待つ。異例のスケジュール変更を余儀なくさせた台風の接近は、まさに嵐の予感、なのかもしれない。

 

 

(Report by 浅田真樹)

 

  

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