千葉RACE REPORT:笑顔で締めくくったラストレース

ライバルとの勝負にベストを尽くし、ファンを魅了したヒーロー

誰も結末を予測できないハラハラドキドキの連続は、これぞ極上のエンターテインメント。レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ2019年最終戦は、今シーズンを、そして2003年から続いた長い歴史を締めくくるにふさわしい、まさに最高のフィナーレだった。

 

前日の予選を終え、最終決戦を前に自力での年間総合優勝(以下、総合優勝)のカードを手にしていたのは、マルティン・ソンカ。このチェコ人パイロットこそが、フィナーレの主役を務めるはずだった。

 

前日の予選で2位となり、チャンピオンシップポイントを67まで伸ばしたソンカは、このレースで2位以上に入れば、他のパイロットの結果に関係なく、総合優勝を成し遂げることができた。ソンカの今年3戦の成績は、2、2、4位。自力で昨年に続く連覇を成し遂げる可能性は、かなり高いと思われた。

 

ところが、抜群の安定感を誇ったディフェンディング・チャンピオンは、ラウンド・オブ・14でオーバーGのペナルティ(1秒加算)を犯し、ニコラス・イワノフに不覚を取ってしまう。

この結果、13位に終わったソンカは、1ポイントしか加えることができず、トータル68ポイントで終戦。ソンカのラウンド・オブ・14敗退は、この2シーズンでわずかに1戦(昨年第7戦)しかなく、にわかには信じがたい“まさか”の出来事だった。

 

これにより、ソンカ連覇の可能性は完全に消滅。ラウンド・オブ・8を前に自力総合優勝のカードは、チャンピオンシップポイントランキング2位のマット・ホールへと移った。ホールは、このレースで3位以上に入れば、初の総合優勝。過去に3度の年間2位がある“シルバーコレクター”に、千載一遇のチャンスが巡ってきた。

 

だが、ソンカの脱落で、チャンスの芽が膨らんだパイロットはホールだけではない。過去に2度、千葉の空を制している室屋義秀もまた、そのひとりだった。

 

この日のレースを前に、ソンカに12ポイント差をつけられていた室屋が総合優勝を果たすためには、ソンカが6位以下に終わる必要があった。最近のソンカの安定した成績を考えれば、それはまさか起こるはずのない状況だったが、しかし、そのまさかが起きたのである。

 

とはいえ、室屋がチャンスをチャンスとして生かすためには、越えなければならない関門があった。そして、その関門を室屋が突破できるか否かを巡り、手に汗握るドラマは1時間以上に渡って展開された。

 

話はラウンド・オブ・14の最初の対戦にさかのぼる。

ヒート1に登場した予選5位の室屋は、同10位のベン・マーフィーと対戦。先に飛んだマーフィーが記録したタイム、57秒897を聞いた室屋は、「これはイケるな」と内心ほくそえんでいた。

 

「前日よりも湿度も気温も高く、トラックタイムが落ちていたので、自分としてはフライト前に、57秒フラットくらいのタイムを想定していました。なので(マーフィーのタイムを知り)、そこまでプッシュしなくても十分マージンがあるなと思っていました」

 

ところが、余裕を持って飛んだはずの室屋のタイムは、わずか0.015秒差とはいえ、マーフィーを下回る57秒912。「あ、やっちまった」。その瞬間、天を仰いだ室屋だったが、もはやあとの祭り。地元でのレースを制し、逆転の総合優勝へ望みをつなぐはずが、一転、初戦敗退の危機に立たされた。

 

「あのタイムでは、ファステスト・ルーザーで残る可能性はほぼないな、と。もちろん、希望を捨ててはいませんでしたが、現実的には厳しいタイムだなと思って見ていました」

残る6組の対戦で生まれる6人の敗者のうち、ひとりでも57秒912を上回るものが出れば、その時点で室屋の戦いはジ・エンド。総合優勝を目指す戦いは、終わりを告げる。

 

1組、また1組と対戦が進むラウンド・オブ・14の様子を、ハンガー内にあるモニターを通じ、食い入るように見つめる室屋。首の皮一枚でつながったまま、ヒート6でソンカが敗れる瞬間も、その眼で確認した。

 

しかし、そんな大波乱も、自身がラウンド・オブ・8へ進めなければ、何の意味も持たない。室屋は厳しい表情を崩すことなく、全身を硬直させ、呼吸をするのも忘れるほど、最後のヒート7の戦いを映し出す画面に集中していた。

 

そして、ついにヒート7の敗者――フアン・ベラルデが58秒180でフィニッシュ。その瞬間、室屋はハンガー内の作業台にもたれかかるようにして、へたり込んだ。

 

「正直、(ヒート7で先に飛んだ)カービー(・チャンブリス)が57秒306のタイムを出したときは、その後に飛ぶフアンが予選トップだったので、これはダメかなと思いました。でも、(ベラルデの)最後の(バーチカル)ターンがちょっと緩くて、少し膨らんだ瞬間に『これは(自分のタイムを)超えるかも!』、と。全ヒートのフライトを、一個ずつのセクタータイムでずっと見ていましたから、最後は疲れ果ててしまいました(苦笑)」

辛うじてファステスト・ルーザーとして勝ち上がった室屋は、吹っ切れたように強さを見せつけ、ホールとともにラウンド・オブ・8も突破。総合優勝の行方はふたりに絞られたまま、決着はクライマックスのファイナル4に委ねられた。

 

ただし、優勝の可能性は、両者に対して平等に与えられていたわけではない。すでに記したように、自力総合優勝のカードを手にしていたのはホールである。

 

3位以上で自力での年間総合優勝が決まるホールとは対照的に、室屋はこのレースを制したうえで、ホールが4位に終わる以外に、逆転戴冠の道は残されていなかった。

 

「(自分が)1位と(ホールが)4位しか可能性がないのは分かっていたので、とにかく完全プッシュで行こう、と。1位以外はいらないという気持ちでした」

 

わずかな可能性に賭け、レッドブル・エアレースでの最後のフライトに飛び立った室屋は、果たして、最終的に2位となるチャンブリスに1秒近い大差をつける58秒630を叩き出し、最後に飛ぶホールの結果を待つことになった。

だが、「フライトとしてはベストな出来だったので、このレースは勝てるかなとは思いましたけど、(ファイナル4で最初に飛んだ)ピート(・マクロード)のタイム(ふたつのペナルティによる5秒加算があり、1分4秒028)を聞いてたので、マットがそれ以下になる可能性は少ないなと、覚悟はしていました」と室屋。

 

「ファイナル4へ行く時点で、このレースを勝ちに行くのか、表彰台(3位以上)でいいのかをチームスタッフに確認し、表彰台(狙い)で行こうと決めていた」というホールが、手堅く3位をキープし、2019年世界チャンピオンの称号をつかみ取った。チャンピオンシップポイントは、ホールの81に対し、室屋は80。わずか1ポイントの差の決着だった。

 

室屋は今年、全4戦中3戦で優勝。優勝回数では、ホールの1勝を凌駕していたうえに、最少ポイント差での決着は、あまりに悔しい“銀メダル”だったはずである。ところが、室屋は意外なほどサバサバとした表情で、「チャンピオンシップというのは、こういうもの。トータルで言えば、今年はマットのほうが実力が上だったということだと思う」と語り、こう続けた。

 

「(室屋がラウンド・オブ・14で敗退し、2ポイントしか獲得できなかった)第3戦のラウンド・オブ・14で当たったのは、マットだったし、あの時点で、“勝負あった”だったんでしょうね。そのときも、そういう(チャンピオンシップを賭けた勝負になるという)気持ちでやっていたし。でも、マットと優勝を争えて、とてもおもしろかったし、楽しかったです」

千葉で開催されたラストレース。会場に詰め掛けたのべ10万人の観衆の多くが期待したのは、地元のヒーロー、室屋の逆転総合優勝だったはずである。

 

だがしかし、結果的に室屋が描いた逆転のシナリオは、最後の最後で思うようには進んでくれず、願った奇跡は起こらなかった。2017年シーズンの最終戦で演じた大逆転劇の再現はならなかった。

 

それでも敗者の言葉に、表情に、不思議と失望の色はにじんでいない。

 

「最後の最後までライバルと全パワーでぶつかり合えたので、何と言うか、こう……、スッキリ終われたかなっていう感じです」

 

そう語るヒーローの顔は、勝者に負けないすがすがしい笑みでいっぱいだった。

 

 

(Report by 浅田真樹)

 

 

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