アブダビRACE REPORT:強い室屋が戻ってきた

2009年のデビュー以来、室屋義秀が昨年まで積み重ねてきた優勝回数は5。そのなかには、対戦相手を次々ねじ伏せ、圧倒的な強さで手にした優勝がいくつかある。

 

だが、そんな記憶に残るレースと比較してもなお、まったく引けを取らない。それどころか、過去最高と言ってもいい。それほどまでに、この日のレースは会心の勝利だった。

 

「フリープラクティスからずっとフライトが安定していて、とてもいいレースができました。(過去に強い勝ち方をした)サンディエゴ(2017年第2戦)とか、ラウジッツ(2017年第7戦)とかよりも、上だったかもしれません」

 

©️Naim Chidiac/Red Bull Content Pool

 

レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップの2019年開幕戦。

 

前日の予選で幸先よくトップに立った室屋は、ラウンド・オブ・14でニコラス・イワノフを、ラウンド・オブ・8でフアン・ベラルデを、いずれも危なげなく下して、ファイナル4へ進出。最終決戦では、ファステスト・ルーザーから勝ち上がってきたイワノフがエンジントラブルによるDNSとなったことで、3人での勝負となるなか、マルティン・ソンカとマイケル・グーリアンを退け、優勝を果たした。

 

2位ソンカとのタイム差は、実に0.003秒。フィニッシュゲートを通過するときのおおよそのスピード、時速300㎞で換算すれば、その差はわずか20㎝。歴史的激戦を制しての戴冠だった。

 

名勝負を目の当たりにし、興奮冷めやらぬといった様子の周囲に目をやりながら、室屋が少々戸惑い気味に口を開く。

 

「レースエアポートに着陸し、キャノピーを開けたときに優勝したと知らされて、テレビカメラも来ていたから、とりあえず喜ばなくちゃ、と(苦笑)。0.003秒差だったというのは、飛行機から降りてから聞きました。でも、僕自身はまだレース映像をまったく見ていないので、実感がないんですよね」

 

©️Sebastian Marko/Red Bull Content Pool

 

予選トップからそのまま優勝までたどり着く、自身初の“ポール・トゥ・ウィン”は、すなわち、1レースで獲得できる最大ポイント、28を手にしたことを意味する。これ以上ない、絶好のスタートダッシュ。すでに年間総合優勝を経験している室屋ですら、「会心の勝利」と表現したくなるのも無理はない。

 

とはいえ、まさに盤石のフライトを続けていた前日の予選に比べると、レースデイの室屋は、いくらか安定感に欠けていたというのが、正直なところだ。

 

「昨日とは風向きが変わり、難しいコンディションだったこともありますが、やはりレースデイは微妙な緊張感があるんです。それは自分でも分かっていて、当然コントロールしようとするんですが、それでも筋肉の反応だとかがほんの少し遅れてしまう。昨日のフライトくらい安定していると、もう絶対に負けないって感じでしたけど、今日はそこまでではありませんでした」

 

しかし、言い換えれば、少々緊張していたところで、室屋は十分強かったということだ。

 

「ラウンド・オブ・14はまだ硬さもあって、昨日ほどの出来ではなかった。でも、今は95%くらいの力でも十分勝ち上がれるだけの余裕が、機体も含めて、うちのチームにはある。ラウンド・オブ・8では、(インコレクトレベルのペナルティを受けた)フアンのタイムを聞いていたので、少しペースを落として飛びました」

 

©️Sebastian Marko/Red Bull Content Pool

 

余裕を残してたどり着いたファイナル4。すると一転、室屋はラウンド・オブ・8までとは異なり、「1位を取るために、目一杯プッシュしていった」と、優勝までのゲームプランを明かす。

 

思えば、昨年の開幕戦。室屋は今年と同じくファイナル4まで勝ち上がったものの、惜しくも優勝は逃し、2位に終わっている。ところが、室屋は当時、「優勝を狙ってプッシュするよりも、自分たちのペースを守って、確実に上位につけることが重要。これが2018年の戦い方だ」と話していた。要するに、「無理に優勝を狙う必要はないのだ」と。

 

「確かに、そんなこと言っていましたね」

 

そう言って苦笑いする室屋は、昨年からの心境の変化(戦略の変化と言ってもいいだろう)について、こう語る。

 

「必要以上にリスクを負わず、とにかくファイナル4までは行く。それは昨年も今年も変わりません。でも、昨年は(ファイナル4で)勝負し切れなくて、2位が2回あったりもしたので、ファイナル4まで行ったら、勝負に出たほうがおもしろいだろう、と。それに昨年と今年では、自分自身の技量もそうだし、機体のセッティングにしてもそうだし、余裕が全然違う。少しくらいプッシュしたとしても、ペナルティをもらわずに行けるので、今年は(ファイナル4で)勝負してもいいんじゃないかと思っています」

 

ラウンド・オブ・8までは余力を残して勝ち上がり、ファイナル4は全力で押し切る。そんな戦略通りの勝利をつかみ取れたからこそ、室屋は「今日はいい感じの勝ち方ができた。パーフェクトに近いかな」と、自画自賛するのだろう。

 

©️Joerg Mitter / Red Bull Content Pool

 

昨年は1勝もできず、苦しいシーズンを過ごした室屋にとっては、一昨年の最終戦(インディアナポリス)以来、およそ1年半ぶりとなる優勝である。

 

「やっぱり優勝はいいですね。でも、うれしい反面、気持ちのなかには、意外と淡々としている部分もあるかもしれません。まだ初戦だし、先は長いですから」

 

室屋とともに今年最初の表彰台に立ったのは、昨年の年間総合王者であるソンカと、同3位のグーリアン。実力者がその実力通りに勝ち上がってきた。そんな印象の開幕戦だった。

 

特にソンカは、「1位を取る気満々で押していった」という室屋を、1000分の3秒差まで追い詰めた。結果的に室屋が逃げ切りはしたが、「(ファイナル4での)ターゲットタイムは53秒4から5というところだったので、53秒780と聞いて、正直、マルティンにまくられるかなと思った」と振り返る。

 

室屋は強かった。だが、ライバルたちもまた強かった。

 

「きっと1年間競い合うことになるでしょうね。今日は勝ちましたけど、残り7戦あるので、日々地道に準備を重ねていきたいと思います」

 

室屋が王座奪還を目指す、白熱のシーズンがスタートした。

 

 

(Report by 浅田真樹)

 

 

︎Information

 

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