タクティシャンの仕事

「タクティシャンの仕事は、データを分析してベストラインを見つけることだけではありません」と語るのは、現在Team Velardeでタクティシャンを務めるアンセルモ・ガメツ。彼はフライトインストラクター、職業パイロット、そしてエアロバティックス選手権でチャンピオンを獲得した経験を持つエアロバティックスパイロットでもある。ガメツはさらに続ける。「私はフライトのための新たなテクニックやトレーニング法を提案し、機体の開発・改良にも関与しています。パイロットと機体をさらに速くするために、あらゆることを学んで調査しています」

 

タクティシャンの始まり

かつて、ポール・ボノムの3度のワールドチャンピオン獲得に貢献したパウロ・イスコールドは、現在Team Chamblissのタクティシャンを務めている。ブラジルのミナス・ジェライス連邦大学で航空機設計やフライトテスト、応用空気力学などを教える教授でもあるイスコールドは、速度記録挑戦用機体のデザインも担当している。2008年、イスコールドは南アフリカ出身のパイロット、グレン・デルに雇われる形で、Red Bull Air Race史上初のチーム専属タクティシャンとなった。以来、彼はタクティシャンの役割の変遷を目にしてきた。

フェアなレースと最新テクノロジー

Red Bull Air Raceのレースコントロールはレースディレクターとヘッドジャッジ(審判団長)以下数名のジャッジ(審判員)で構成されており、各自が異なる役割を担っている。レースディレクターはレーストラック進入許可の通知など、パイロットとのコミュニケーションを担い、ヘッドジャッジはレーストラック上でのフライトを監視する。そしてその他数名のジャッジが "ジャッジターミナル" と呼ばれるシステムを使用してパイロットのあらゆる動きをチェックしていく。

最新のテクノロジーが詰め込まれているのはレースを戦う機体のみではない。ジャッジターミナルもレース専用に開発された特別な機器だ。ジャッジターミナルは2014シーズンに初導入されて以来、着実な進化を続けている。

レースエアポートの建造

その作業を担うエアポート・オペレーションチームを率いるウォルター・プレテンターラーは、チームがあらゆる問題を乗り越えてレースエアポートを建造できるように配慮している。

チームはパイロットや機体が到着するよりもかなり前に現地入りし、彼らが到着した際にはすべての準備が整っている状態にするために、長い時間をかけてレースエアポートを建造していく。

今シーズンの千葉やブダペストのように天候が不安定な場合は、チームは更なる努力をする必要に迫られる。たとえば、2015シーズンの千葉は台風の影響でハンガーが波に晒される可能性があったため、チームはエアポートの分解と再建造を行わなければならなかった。プレテンターラーは11名で構成されるチームが気落ちしないように、そして建造という大きな目的を見失わないように注意する必要があった。プレテンターラーは「我々は建造のプロセスを熟知している。千葉では建造した直後に分解しなければならなかったので、その知識が役に立った」と振り返っている。

コックピットの進化

G3Xは飛行機の伝統と言えるアナログ計器類に代わる画期的なディスプレイシステムだ。必要なすべてのデータがひとつの画面にまとめて表示されるため、パイロットたちがレースに集中することを可能にしている。また、G3Xはアナリストたちが必要なデータを自動で集積するため、パイロットたちのライン攻略の大きな助けにもなる。

今シーズンは3チームがG3Xを導入している。Team GoulianとTeam Garminが開幕戦アブダビから導入し、ハンネス・アルヒも第2戦シュピールベルクから導入した。

Team Garminのテクニシャン、パット・フィリップスは「計器類が一気に見やすくなりましたね。フライトの分析に必要なデータもすべて集積してくれますし、エンジンをベストの状態に保つ燃料流量も設定してくれます。また、ゲージのカスタマイズもできるので、必要なパラメータの表示範囲も自由に設定できます」とそのメリットについて説明している。

機体の分解・組立

Red Bull Air Race World Championshipは世界各地を転戦するため、機体は3大陸にまたがる全8戦に向けて輸送されるが、輸送するためには、機体は分解・梱包されたあと、再び組み立てられるという手順を踏むことになる。その手順を踏んで既にシュピールベルクに到着している各機体は、これからレース本番に向けた調整が行われる。

輸送のための機体の分解・組立は慎重かつ正確に行わなければならないため、かなりの重労働になる。この段階でなにかミスがあれば、レース本番に大きな影響を及ぼすことになるが、各チームと輸送会社はエキスパートであり、自信を持ってこの作業に取り組んでいる。

ハンネス・アルヒのチームでテクニシャンを務めるナイジェル・ディッキンソンも、当然ながら機体の分解と組立に精通している。彼の手際はもはや芸術の域に達しており、彼がいなくても機体は現地で問題なく組み立てられていく。ディッキンソンは整理整頓がカギだとしている。

水中の秘密メカ

そのため、イヴァンカ・クスタースとマルコ・ファン・エスが率いるレーストラックオペレーションチームは、すべてが定位置に置かれて固定されているかどうかを確認する必要がある。その確認作業のために彼らが加えた新メンバーが、VideoRay Pro 4 ROV(水中リモートコントロールマシン)だ。

VideoRayは水深300mまで潜水可能で、システムモニターと水面に浮かぶボートに設置されたラップトップにライブ映像を送信する。ファン・エスが説明する。「ROVを導入してしばらく経ちますが、ロヴィニで初めて使用しました。特に悪天候時の碇の状態を確認するのに使用します。すべてが問題ないか、碇が動いていないかを確認したいのです。ダイバーを使っての確認作業はここまで簡単にはできません」

ROVを使用すれば、多くの時間が節約され、ダイバーが準備する必要もなくなるということだ。ファン・エスが続ける。「ボートの横からROVを水中に投下すれば、5分以内に碇の状態が把握できます。映像の視界も良いので、碇が緩むリスクがあるかどうかも確認できます」

レースディレクターが語る決勝レースの見所

スティーブ・ジョーンズは説明する。「今日(日曜日)は土曜日とは風が違います。千葉ではどの方向から風が吹いても、機体をスピードダウンさせることになります。土曜日のフライトでは、パイロットたちは強風に対応しなければなりませんでしたが、完全に異なるコンディションの今日、彼らがどのようなパフォーマンスをするのか。この点に注目したいですね」

天候の影響もレースの見所のひとつだが、決勝レースの1回戦、ラウンド・オブ・14の一騎打ちにも注目したい。ジョーンズはラウンド・オブ・14の見所について次のように説明する。「ラウンド・オブ・14の組み合わせは非常に面白いですね。ルボットとイワノフのフランス人対決や、ナイジェル・ラムとマット・ホールのMXS-R対決もあります。この対決はウィングレットの対決でもありますね。そして忘れてはならないのが、ポール・ボノムとハンネス・アルヒという強者2人の直接対決です」

ジム・ディマッテオが続ける。「昨日はあいにくのコンディションでしたが、1秒以内に8人のパイロットがひしめき合っているので、決勝レースは接戦になるでしょう」

最後にスティーブ・ジョーンズに優勝候補は誰かを訊ねると、本人は次のように回答した。「コンディションに一番早く適応したパイロットが優勝するでしょう」

機体の発着会場設営を支える専門チーム

エアポートオペレーションチームはすべてのハンガーを組み立てた後、それらを再び解体しなければならいという事態に陥った。台風による高波が防波堤を越える恐れがあったためだ。しかし、エアポートオペレーションチームのリーダー、ウォルター・プレテンターラーは11人で構成されるこのチームを常にポジティブな状態に保ち続けている。プレテンターラーは、「私たちは設営のプロセスを熟知しています。ハンガーを組み立てて、すぐに解体するという時に、その知識が大きな助けになりました」と振り返った。

会場を解体しなければならなかったのは、海水が会場にダメージを与える可能性があったからだ。プレテンターラーは続けた。「私たちには設営に必要な資材を安全に保管する責任があります。ハンガーには延べ5kmに及ぶワイヤーがありますが、海水で台無しになるところでした。その中で、唯一壊れたり腐食したりする恐れがないのがフレームワークです」

台風による遅延のため、パイロットが飛行するまでにすべての準備を整えなければならないプレテンターラーは20人の地元スタッフに支援を求めることになったが、本人は「僕のチームは優秀です。彼らは精神的に強く、常にポジティブです」と自信を見せた。